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涼宮ハルヒ挙国一致内閣 国務大臣(敬称略) 内閣総理大臣 涼宮ハルヒ 内閣官房長官 古泉一樹 総務大臣 国木田 法務大臣 新川(内閣法制局長官兼務) 外務大臣兼沖縄及び北方対策担当大臣 喜緑江美里 財務大臣兼金融担当大臣 佐々木(内閣総理大臣臨時代理予定者第一位) 文部科学大臣 周防九曜 厚生労働大臣 朝比奈みくる 農林水産大臣 会長 経済産業大臣 鶴屋 国土交通大臣 藤原 環境大臣 谷口 防衛大臣 長門有希 国家公安委員会委員長 森園生 国務大臣以外の主な役職(敬称略) 内閣官房副長官(政務) 橘京子 内閣情報官兼内閣危機管理監兼内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当) 朝倉涼子 内閣広報官 妹 内閣広報室企画官 吉村美代子 内閣総理大臣秘書官(政務担当) 俺 ああ、なんというか、呉越同舟という言葉がぴったりな状況に陥ってしまった経緯については省略しよう。 まあ、要するに未曾有の国難ということで、対立していたSOS党と佐々木党が連立して挙国一致内閣を作ったということだ。 じゃあ、とりあえず、上から順番に説明しようか。 ハルヒが総理大臣なのは、当然だわな。何でも一番が好きなハルヒが二番以下の地位に甘んじるわけもない。SOS党は衆参両議院で第一党だから、その党首が総理大臣に選ばれるのは、普通に考えても当然だしな。 古泉は、どこまでいっても、ハルヒのフォロー役というわけだ。実質、この内閣を取り仕切っているのは、こいつということになる。ご苦労なことだ。 国木田は、総務大臣の役目を飄々とこなしている。昔からできるやつだったし、任せておいて問題はなかろう。 新川さんは、年齢構成が若すぎるこの内閣においては、御意見番的な存在だ。 喜緑さんは、あの薄い微笑で対外交渉をこなし、諸外国からはタフなネゴシエーターとして認識されている。 佐々木のところの括弧書きは、俗にいう「副総理」というやつだ。この国難の中で、財政金融をつかさどるのはかなりの激務だが、よくやってくれている。 九曜に文部科学大臣を任せるのは、日本の将来を担う子供たちのためを思うとおおいに不安なのだが……。教育行政が滞りなく遂行されることを祈るばかりだ。 朝比奈さんは、まさに適役だと思うね。ただ存在しているだけで、国民の福利厚生に絶大なる効果がありそうだ。 会長さん(俺はいまだに彼の本名を知らん。みんな会長って呼ぶしな)は、生徒会長時代に培った実務能力で、農林水産大臣の職務を難なくこなしている。 財界の重鎮である鶴屋さんは、まさに適材適所といったところ。あの明るい振る舞いで、日本の景気も明るくしてくれそうだ。 藤原とは個人的にはそりが合わんが、この国難の中ではそんなこともいってられん。嫌味なやつだが、仕事は真面目にこなす。ただ、協調性が足りないのが問題だわな。国土交通省は防災担当機関でもあるから、いざというときは他省庁との連携が重要なんだがなぁ。 なんで谷口が大臣なんぞになれたのか。まあ、ハルヒの気まぐれなんだろうが。環境行政が停滞しないことを祈る。 長門が防衛大臣を担う限り、日本の国防は安泰だ。ひたすらに頼もしい。ただ、仕事をさっさとすませて、国会図書館によく出没するという噂が絶えない。 森さんは、警察組織のトップ。彼女がにらみをきかせれば、日本の治安は安泰だぜ。一方で、「機関」を通じて裏社会も仕切っているという黒い噂が聞こえてきたりも……。 橘京子は、古泉と一緒に内閣を取り仕切っている。SOS党と佐々木党の呉越同舟状態をうまく切り盛りしていくためには、この二人の連携は非常に重要だ。だから、佐々木を異常なまでに持ち上げて、ハルヒの機嫌を損ねるのはやめてほしいのだが。 朝倉涼子は、内閣官房の中では、古泉、橘に次ぐ相当な実力者である。情報・危機管理・安全保障を一手に握ってるからな。本人は防衛大臣をやりたがってたんだが、暴走して他国に戦争でも吹っかけられたら困るので、裏方に収まった経緯がある。 最近朝比奈さんにそっくりになってきた俺の妹は、内閣広報官。これが意外に天職だったらしく、毎日楽しそうに仕事をしている。 ミヨキチは、妹の補佐役といったところだ。妹と仲良くやっているようで、大変結構なことである。 で、俺はハルヒの秘書官というわけだ。ハルヒに振り回される雑用係というポジションは、どこにいっても変わらないものらしい。まったく、やれやれだ。 首相官邸。 「佐々木さんが、涼宮さんに使われる立場なんてありえないのです。佐々木さんこそが首相にふさわしいのです」 「また蒸し返すんですか、あなたは」 橘京子と古泉一樹が、また口論している。 ここ最近、すっかりお馴染みになってしまった光景で、もはや口をはさもうとする者はいなかった。 「第二党が何をいったって、しょせんは負け惜しみですよ」 「今度の選挙では、必ず勝って見せるのです」 橘京子は、ほおを膨らませて不満顔だ。 「せいぜい、頑張ってください。それよりも、例の件、佐々木党内の取りまとめはしてくれたんでしょうね?」 「もちろんです」 国家公安委員会・警察庁。 森園生は、極秘とスタンプが押された報告書を読んでいた。日本国内を跳梁跋扈する国外の諜報員を「非合法に処理」した記録である。昔はスパイ天国などといわれた日本国であるが、森園生が陣頭指揮をとって対策を進めた結果、状況はだいぶ改善されつつあった。 もう一枚の紙を取り上げる。こちらは何もスタンプは押されてないが、極秘文書には違いなかった。なぜなら、それは「機関」の文書だから。 TFEIの動向。天蓋領域の端末には変化は見られないが、情報統合思念体の端末は増員され、政府組織の中に潜入していた。いつでも政府を乗っ取れる体制でありながら、彼女たちは何もしようとしない。観測任務を第一とする態度は不変である。 現在、政府を乗っ取っている立場である「機関」と橘京子の組織としては、TFEIたちのそのような態度は不気味ですらあった。 政府の国防・外交・危機管理を押さえているTFEIトップスリー、長門有希、喜緑江美里、朝倉涼子ですら、人間レベルでなしうる以上のことをしようとはしていない。そして、そのレベルですら完璧人間に近いのだから、文句のつけようもないのだ。 森園生は、二つの文書を丸めて灰皿に置くとライターで火をつけた。情報流出を防ぐ最も手っ取り早い方法だ。 「宇宙人たちは不干渉ということね。なら、未来人たちはどうかしら……?」 そのつぶやきを耳にした者は、誰もいなかった。 厚生労働省。 真面目に書類仕事をこなしている朝比奈みくるのもとに、藤原がやってきた。 彼は、入ってきた途端に盗聴防止装置を稼動させると、口を開いた。 「あんたは、このまま状況を座視してるつもりか?」 「当然でしょ。介入は許可されてないわ。藤原くんだって同じじゃないかしら?」 「何百万人もの人間が犠牲になるんだぞ。それを黙って見てるつもりか?」 朝比奈みくるは、簡易シミュレーターを取り出し稼動させた。 無数の曲線と数式と記号で構成された光の三次元樹形図が空中に展開される。 「実際、それを阻止しようと思えば、介入しなければならない時点は1249箇所。二人だけじゃ、手に負えないわよ。あからさまな規定事項破壊行為だし、介入が全部終わる前に私たちが始末されちゃうわ」 朝比奈みくるは、簡易シミュレーターをポケットにしまった。 光の樹形図が消え去る。 「あるべき未来を守るためには仕方ないわよ」 「そんな未来なんぞ糞食らえだ」 「藤原くんだって分かってるはずでしょ。私たちはこの悪しき世界を守るために存在する悪党だってことは」 「……」 藤原の顔が渋面を形作る。 「それが嫌なら、未来に帰って組織を抜けることね」 国立国会図書館。 読書にいそしんでいた長門有希のもとに、喜緑江美里と朝倉涼子がやってきた。二人とも半ステルスモード。図書館という空間に同化している長門有希はともかく、二人はこのような場所では目立ちすぎるからだ。 長門有希も、半ステルスモードに移行した。 「大規模な情報操作をしない限り、戦争は不可避。その旨は、既に報告済みである」 「私も同じです」 「私も同じよ。三人とも意見が一致するなんて、つまんないわね」 「情報統合思念体からの指令は、観測の継続。積極的な干渉の禁止、つまりは、不干渉原則の維持である」 「穏健派はしぶしぶ同意したみたいですけどね。戦況が悪化した場合に、涼宮ハルヒの力が暴走して危険を招くことを懸念しているようです」 「その方が情報爆発を観測できていいじゃないの」 朝倉涼子はあっけらかんとそう発言した。 「主流派は、今のところ急進派と同意見。ただし、情報統合思念体に危険が及ぶことになれば、穏健派とともに阻止することになるだろう。むしろ、気になるのは天蓋領域の動向」 「周防九曜は、相変わらずのようです。あちらも、不干渉という点ではこちらと変わらないのではありませんか。むしろ、未来人の方が干渉してくる可能性は高いと思いますけど」 「戦争の発生自体は、彼女たちにとっても規定事項であると思われる。そうでなければ、そろそろ動きがないとおかしい」 経済産業省。 鶴屋大臣は、いろんな方面に電話をかけまくっていた。 「……戦争ともなれば鉄鋼の増産は不可欠だからねっ。……生産ライン増強の補助金? いやぁ、お国の財政が厳しくてねぇ。……あっ、そんなこと言っちゃっていいのかなぁ? あのことをバラしちゃうよっ。……うん、理解してくれて助かるにょろ。じゃあ」 電話を置き、次の話し相手の電話番号を確認する。 「ええっと、次は、○○商事だったかな?」 鶴屋大臣の脅迫電話は、その日一日中続いていたという。 首相官邸。 「ああもう! 今日もくだらない仕事ばっかりだったわね!」 「仕方ないだろ。一国の首相ともなれば避けられない仕事はいくらでもあるさ」 俺は、文句たれるハルヒをなだめる役目だ。この役目は昔から俺のもので、いまだに免れることができてなく、おそらく将来もずっと続くだろうと思われた。 なんたって、俺は、栄えあるSOS党党首殿の夫だからな。今さら免れることは不可能だろうし、その気もない。 「ねぇ、キョン」 ハルヒは俺の背中に手を回して抱きついてきた。 「なんだ?」 「あたし、そろそろ子供ほしい」 「いきなり何言い出すんだ、おまえは」 「いや?」 ハルヒの表情は真剣そのものだった。 「あのなぁ、ハル……」 俺が言いかけた瞬間に、背後から声が降ってきた。 「涼宮内閣腐敗の現場、そんなところだね」 振り向くと、そこには佐々木がいた。 「腐敗といってもこの程度でね。申し訳ない。でも、部屋に入ってくるときはノックぐらいはしてくれよ」 「したよ。ただし、お二人とも自分たちの世界に没頭するあまり、ノックの音を認識することを脳が拒否していたようだけどね」 俺たちは二人して顔を赤くするしかなかった。 「何の用だ?」 「酷い言い方だね。僕は、ここ一週間ほとんど寝ないで、この『戦時財政計画』をまとめていたというのに。ねぎらいの言葉ぐらいほしいところだ」 佐々木は、右手に握っていた分厚い書類を、近くのテーブルの上に無造作に置いた。 「すまん。それはご苦労だったな」 「ありがとう。君にそう言ってもらえると、僕の苦労も報われるというものだ」 何を大げさなと思っていると、背後に寒気を感じて振り向いた。 ハルヒが、剣呑な視線で佐々木をにらんでいる。 「涼宮さん。そんな目でにらまないでよ。別にあなたの夫をとろうなんて思っちゃいないわ。私だって、その辺はわきまえているつもり。キョンは誰にだって優しい人、涼宮さんだって分かってるでしょ?」 「分かってるわよ!」 ハルヒは不機嫌な顔のままだ。 「涼宮さん。お互い、この内閣が続く間だけでも仲良くやりましょう」 ハルヒはしぶしぶ頷いた。 「なあ、佐々木」 「なんだい?」 「この内閣が終わったら、おまえたちはまた野党に戻るのか?」 「当然だよ。キョンだって分かってるはずだ。涼宮さんには、常に張り合える敵役が必要なんだ。今は外敵がいるからいいけど、それがなくなったら、張り合いがなくなる。ならば、その役目は僕が果たそう」 「でも……」 「僕自身も、そういう役回りを結構楽しんでるのでね。おかげで、涼宮さんと出会えてからの人生はとても充実している。では、馬に蹴られないうちに退散するとしよう」 佐々木は去りかけて、再びこちらを向いた。 「キョン。君が愛妻家なのは結構なことだが、自重してくれたまえよ。この未曾有の国難の時期に、首相閣下が産休では、国民に示しがつかない」 俺たちが何かをいう暇すら与えず、佐々木は足早に去っていった。 終わり
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エピローグ 終業式の日は、雨だった。去年は快晴だったな。 俺は今更ながら、1年前にも大きな選択をしたんだということを思い出した。 あのときは世界そのものの選択。 今回は、誰に世界を託すかの選択。 結局、どちらにしても俺は自分の苦労する選択をしちまったわけだ。 ハルヒが暴走して、俺が振り回される。 この図式はこれからも既定事項なんだろう。 でも、それもいいだろう? 雨でも早朝サイクリングを続けている俺は、今日もハルヒとともに登校だ。 俺の後ろで傘を差しているハルヒも結構濡れるはずなのに、送迎を免除してくれはしない。 ──まあ、俺も休む気はないのだが。 こんな雨では自転車で会話もままならないので、無言のまま駅に着いた。 「さ~て、今日は午前中で学校も終わりよ! 放課後は楽しみにしてなさい!」 1週間ほど前まで意識不明だったとは思えない元気さで、ハルヒは言った。 そう、放課後は去年と同じくクリスマスパーティin部室らしい。 「去年より美味しい物を食べさせてあげるから!」 俺は去年の鍋を思い出した。あれは旨かったな。 ハルヒがあれより旨いって言うんだからここは素直に楽しみにしておこう。 「ああ、期待してるぜ」 俺がそういうと、にんまり笑って俺を見たが、ふと目を伏せて言った。 「みくるちゃんも鶴屋さんも、今年で最後ね……」 ハルヒは寂しげな表情をしていた。 あの事件の前までは触れることのなかった話題だが、退院してからは話すようになっていた。 俺はと言うと、俺の前では素直に不安なことも話せるのか、と内心自惚れている。 そんなハルヒも何というか、まあかわいげがあるしな。 「まだ直ぐ卒業式って訳じゃないから、今のうちにたくさん楽しめばいいさ」 受験生のお二人、すみません。ハルヒに付き合ってやってください。 特に、いつかは本当に分かれなくてはならない朝比奈さんは。 「お前なら『もう充分』って思わせるくらいに楽しませるだろうさ」 俺のセリフにハルヒは笑顔を取り戻した。 「そうよ! だから今年はほんとに豪勢にするんだから! みくるちゃんと鶴屋さんにもびっくりしてもらわなくちゃ!」 今年は朝比奈さんには手伝ってもらわない気か。 「手伝ってもらうわよ! そっから楽しまなくちゃ損じゃない!」 準備も楽しみのうちね。確かにそうかもしれないな。 「あんたは今年は一発芸を免除してあげるわ。あんたがやっても寒いだけだし」 団長様のありがたいお言葉に俺は苦笑した。俺がお笑いに向いてないことにやっと気がついたか。 「その代わりキリキリ働くのよ!」 そう言って、100Wの笑顔を俺に向けてきた。 それからふと何かに思いついたような、頭の上に電球がともったような顔をすると、突然話を切り替えてきやがった。 「あたしが意識なかったときの夢なんだけどさ」 この話をされると俺も警戒する。ボロを出すわけにはいかない。 「何だ?」 なるべくさりげなく答える。 「どう考えても不思議なのよね。夢なのに、細かいところまではっきり覚えてるのよ」 うっ やっぱりそうか! なんと言って誤魔化す?? 俺が焦っていると、ハルヒは勝手に続けた。 「だから、あれは夢じゃなくて、宇宙人からのメッセージじゃないかしら」 はい? なんとおっしゃいました? 「そうよ、きっとあの山にUFOが墜落したのは本当なんだわ! それで助けて欲しくて、あたしにあんな夢を見せたのよ!!!」 おい、ちょっと待て! 「SOS団にSOSよ!! これは助けに行かなくちゃならないわ!!」 何だそのおやじギャグは!!! 「冬休みは裏山探検よ! 宇宙人を捕まえに行くんだから!」 助けに行くんじゃなかったのか? ……やれやれ、さて、どう止めようかね。 しかし、嬉しそうなハルヒの笑顔を見ていると、まあいいかという気にもなってくる。 俺が今回の事件で頑張ったのは、この笑顔を取り戻したかったからなんだ。 だったら、ハルヒの気の済むまで付き合ってやってもいいか。 ──それが今、俺にとっての大切な日常なんだから。
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涼宮ハルヒのOCG③ (2008/9/1の制限改訂です) 「やっほー! みんな、新しい制限改訂が出たわよーーー」 団員全員が机に座って向かい合ってるという、いつもと少し違う日常を過ごしていた俺たちだが、その日常を変えるのが、ドアを蹴破るようにして部室に入ってきた我らが団長涼宮ハルヒ。まったく、もう少し静かに入ってきてくれ。ドアが壊れても俺は知らんぞ。 「さっきコンビニ行ってVJ買ってきたわ、みんな見ていいわよ?」 なんかえらくハルヒが上機嫌だな。とはいえ制限改訂となれば俺も気になる。前回は死者蘇生が戻ってくるなんていうハプニングもあったしな、どれどれ・・・。 新禁止が・・・早埋、混黒、次元融合とかか、まあ妥当だな。インスタントワンキルはもうこりごりだ。サイドラも制限か、世界大会での採用率が高かったらしいしこれも普通かな? 準制限と制限解除が・・・・ 「裁きの龍はライトロードというファンデッキのエースカードのはず、準制限は疑問。」 長門、それは流石に無理があるぞ。制限にならなかっただけでも喜ぶべきだ。 「・・・そう」 「ダムドが準制限でよかったあ。それに増援とディアボリックガイが解除です。これは私の時代が・・」 朝比奈さんがいつものメイド服のままはしゃいでいる。というか朝比奈さん、未来人ならこの制限改訂の結果も知ってたんじゃないですか? 「ふふ、禁則事項です☆」 朝比奈さんはいたずらっぽくウインクしながら、ハルヒのお茶を淹れる為に食器棚に向かっていった。今回の制限改訂、うーんまあ風帝が緩和されなかったのが俺としては残念だ。邪帝が無制限なら風帝ももう少し緩和を・・・、んっ、ちょっと待て、ダムドビートはダムドが準制限、ライトロードは裁きの龍が準制限。剣闘獣はどうしたんだ? 「どうやら○ナミも剣闘獣の規制に関してはお手上げだったようですね。」 頼んでもいないのに古泉がしゃべりだした。お手上げなんてことはないだろ、ガイザレスなりベストロウリィなりチャリオットなりを規制することはできたはずだ。 「そうは言われましても、もう発表されてしまったものはしょうがないです。僕としては、これで今日は閉鎖空間へ行かなくて済みそうなので大歓迎ですが。」 といいつつハルヒを見ると満面の笑みを浮かべている。やれやれ、この改訂もハルヒが願ったからなんて言わないでくれよ。 「さあみんな!デッキを新制限にむけて組みなおすわよ!キョン、あんたは大してデッキ変わんないんだから、有希やみくるちゃんが組みなおしてる間にあたしと勝負しなさい!」 よーし受けてたってやる。環境最前線ばかりが強いわけじゃないてことを教えてやるぜ。 「キョンのくせに生意気ね、マッチで勝ったほうがジュースおごりよ。ジャンケン、ポン!あたしの先攻!」 こうしてやたら白熱した放課後は過ぎていった。正直に言おう、けっこう楽しい。 カバンをとって部室をでようとすると誰かに袖をつかまれた。こういうことをやるやつは1人しかいない。 「どうした?長門。」 振り返ると黒曜石のような目をして俺をみているヒューマノイドインターフェイスがいた。何かいいたそうだな。 「今日、7時にいつもの公園に」 長門は透き通るような声でそれだけをいうと、すたすた歩いていった。またなんか事件か?ハルヒは今日終始ご機嫌なように見えたのだが。もしかしたら長門自身のことかも知れない。まあいずれにせよ、長門の頼みを断る理由なんてあるわけない。俺でも長門の役にたてるなら、なんだってやるさ。 家族には適当な言い訳をして俺はいつもの公園へとチャリをとばしていた。あの公園もいろいろあったものだ。まだ眼鏡だったころの長門との待ち合わせ、朝比奈さんとのタイムトラベル、さて今度はなんだろうか。とまあいろいろ考えてるうちに公園に着いた。だが、珍しいことに長門はまだ来ていなかった。まさか時間か場所を間違えたか?だが、まだ時間前だったのでベンチに座って待っていると、 「久しぶり」 背後から聞き覚えのある声がかけられた。と、同時に俺は身震いして声のした方へ身構えた。この声は・・・ 「5月以来?それとも冬以来かな?」 クラスの元委員長にして情報統合思念体急進派のインターフェース、消えたはずの朝倉涼子が立っていた。 「どういうことだ、なんでお前がまたここに?」 俺は少しずつ後ずさりながら言った。くそっ、部室にいた長門は偽者だったのか?いや表情を見る限りそんなことはなかったはずだが・・・ 「あれ、長門さんから聞いてないの?」 朝倉は微笑みながらゆっくりこっちへ近づいてきた。その手にはいつのまにかナイフが握られている。そして周りの風景はいつかの情報封鎖空間と化していた。やばい、マジでやばい。長門、来れるなら来てくれ・・・・ 「彼に説明するのを忘れていた。・・・うかつ。」 長門が俺のすぐ横にいた。長門、頼むからどういうことか分かりやすく説明してくれ、俺では理解できん。 「今目の前にいる朝倉涼子はあなたに害意をもっていない。彼女は一度情報連結を解除された後、思念体に回帰し派閥を変えて穏健派となった。穏健派になって以降の彼女とは私は定期的に連絡をとっていた。最近の活動内容を話したところ、彼女も興味をもち、今日はあなたとデュエルするためにここに私が呼んだ。だが彼女はまだインターフェースを持たない為、通常空間では長く存在することが難しい。よってこの空間を生成し、現在に至る」 長門にしては分かりやすい説明だ。だがなんで朝倉はナイフをもっているんだ? 「それは・・・」 「演出、そうよね?長門さん」 「そう。」 まったく勘弁してくれ。こっちは寿命が3年ほど縮まったような気がするぞ。 「驚かせてごめんね。で、さっそくデュエル始めない?」 朝倉は悪びれた様子も無く笑い、ナイフを捨てて(ナイフはすぐに消えた)言った。いや、別にやるのは構わないんだが、机も椅子も無いこの空間でどうやってやるんだ?というか俺はデッキをもってきてないぞ。 「私が今作成した。こっちがエキストラ。」 長門がデッキを俺に向かって差し出していた。スリーブの色までまったく同じだ。ちなみに茶色だ。朝倉は濃紺のようだ。 「方法は・・・せっかく情報封鎖空間にいるんだし、ちょっとリアルにやってみない?」 朝倉はそういうと例の高速詠唱を始めた。3メートルほど離れて対峙していた俺と朝倉それぞれの前に、半透明で空中に静止しているデュエルフィールドが現れた(なんかスペースがいつもより1つ多いと思ったら除外ゾーンだった。○ナミより気がきくんだな) 「やり方はいつもあなたたちがやってるのと全く同じ。ただ、モンスターや魔法・罠がCGで私たちの間に実体化されるだけ。それじゃ、準備はいい?」 こうなったら俺も男だ。売られた勝負は買ってやるぜ。それに今回は命の危険があるわけでもないしな。いざとなったら長門がいる。どうにでもなるさ。よし、いつでもいいぞ朝倉。 「ただ決闘普通に決闘やっても面白くないから、何か賭けをしない?」 賭けだと?別に構わないが、互いの命を賭けるとかは無しだぞ。 「もう、そんなこと言わないって。信用無いなあ、私」 とはいっても俺は二回もお前に殺されそうになってるんだ、そのくらいは警戒して普通だろ? 「二回目はここにいる私の意志と関係ないんだけどな・・・。まあいっか。負けたほうが勝ったほうの言うことを一つだけ有機生命体ができる範囲でなんでも聞く。これでいい?」 了承だ。ならジャンケンだ朝倉、先攻後攻を決めないとな。 「先攻はあなたにあげる。5月のおわびも兼ねて。」 少々詫びる観点がずれてる気もするが、くれるものはありがたくもらっとくぞ。俺の先攻、ドロー! ハーピイ・クイーンを攻撃表示で召喚。カードを一枚伏せてターンエンドだ。 「私のターン、ドロー。豊穣のアルテミスを攻撃表示で召喚。カードを3枚伏せてターンエンドよ。」 俺のターン、ドロー。やたら伏せカードが多いのが気になるな・・召喚権は残しておこう。バトルフェイズ、ハーピイ・クイーンで敵モンスターに攻撃だ。 「攻撃宣言時に伏せカードを発動するわ、次元幽閉。」 そうはいくか、こっちも伏せカードオープン、ゴッドバードアタックの効果でハーピイ・クイーンをコストに・・・ 「うん、それ無理。チェーンして魔宮の賄賂を発動。ゴッドバードアタックは無効ね。」 くっ・・・魔宮の賄賂の効果で1ドロー。逆順処理終了か。しかしこのCGシステムはリアルだな、本当に次元の裂け目にハーピイ・クイーンが吸い込まれていきそうになりやがった。ダイレクトアタックの時はどうなるのか、考えたくも無いね。 「魔宮の賄賂で罠カードをカウンターしたことにより、手札より冥王竜ヴァンダルギオンを特殊召喚するわ。残念ながらあなたのフィールド上にカードがないから効果は不発だけどね。」 なんだって、これは予想してなかったぜ。というか朝倉のデッキはパーミッションか。けっこう頭使うんだよな、このデッキは。 「さらに豊穣のアルテミスの効果で1ドロー。あ、安心して。このデュエル中、私は一切の情報操作は使えないわ。普段なら読もうと思えばいつでも読める有機生命体の情報をあえて読めなくすることによって駆け引きがうまれる。こんなに面白いことはないわね」 朝倉はニコリと微笑んだ。1学期当初に見ていた笑みとは違って、心から楽しんでいるような笑みだった。こいつもこんな笑い方するんだな。メイン2、裏守でモンスターをセット、カードを一枚伏せてターンエンドだ。 「私のターン、ドロー。ねえキョン君、私は派閥を移して長門さんと定期的に連絡をとるようになってから、昔はわからなかった感情とかがいろいろと理解できるようになったわ。パーミッションのデッキを組んだのも、相手との駆け引きがしたかったから。ただ単純にモンスター効果で攻めて倒すのは私にとってつまらないの。」 今日はよくしゃべるんだな、朝倉。別にしゃべるのは自由だがお前のターンだぞ。 「普段は長門さんとしかしゃべらないからね・・。少し嬉しくて。バトルフェイズ、ヴァンダルギオンで裏守に攻撃よ」 裏守は魂を削る死霊だ。こいつは戦闘では破壊されない。どうする朝倉? 「どうしようもないわね。1枚伏せてターンエンドよ」 俺のターン、一枚ドローして、メイン入るぞ。霞の谷の戦士を召喚。7シンクロで呼び出すのは、ブラック・ローズ・ドラゴン。誘発効果で全体除去を・・ 「モンスター効果にチェーンしてコストを払い天罰を発動。効果は無効に・・」 あまいぜ朝倉、こっちも天罰にチェーンして伏せカード発動!神の宣告だ。ライフを半分払って天罰を無効にする。 「そんな・・・。」 ブラック・ローズ・ドラゴンの効果は有効。よってフィールド上のカードは全て破壊だ(全体除去は爆発するんだな・・。これもなんかリアルだ)。俺はこのままターンエンドだ。 「アルテミスの永続効果でドローするわ。全体除去をした後にフィールドに何も伏せないの?こっちがモンスター召喚したらダイレクトアタックをうけるわよ?」 ああ、かまわん。これしかなかったんだ。パーミッションならモンスターもそう多くはないだろう。大丈夫だ、多分。 「私のターン、ドロー。残念、いいモンスターはひけなかったみたい。裏守をセット、カードを2枚伏せてターンエンドよ。」 正直助かった。ライオウとかでてきたらどうしようかと思ったぜ。やれやれ。俺のターン、ドロー、よしいいカードを引いたぜ。手札から(今ドローした)死者蘇生を発動、墓地のハーピイ・クイーンを蘇生させる、ハーピイ・クイーンをリリースして邪帝ガイウスを召喚、効果で裏守を除外するぜ。裏守は・・・・おっと危ねえ、マシュマロンだ。さらに墓地の風闇2体を除外してダーク・シムルグを特殊召喚!2体で攻撃だ。 「両方とも通すわ。けっこう痛いわね」 これで朝倉のライフは2800.俺は4000.どうなるかはまだ微妙なところだな。ターンエンドだ。 「ドロー、豊穣のアルテミスを攻撃表示で召喚、ターンエンドよ。」 俺のターン、朝倉の場には伏せカードが2枚。1枚はさっきの召喚・攻撃のときなにも発動しなかったからおそらくブラフだろう。問題はもう一枚だが・・・。あれが何かのモンスター破壊だったとしても、もう1体の攻撃は通る。伏せが少ない時にパーミッションは叩いとかないとまずいからな。ちなみに聖バリはさっきブラックローズの除去のときに墓地へ行ったのを確認してあるぜ。よし行くか、邪帝でアルテミスを攻撃! 「ダメージステップに速効魔法、収縮を発動するわ」 くっ・・・400のダメージか、だがこれは想定内だ。ダルシムで豊穣のアルテミスに攻撃だ! 「それも無理、ダメージ計算時、手札からオネストを墓地に捨てて効果発動よ」 うおっ・・これはやばい、やばすぎる。俺のライフは残り2000。オネストめ・・ああ忌々しいカードだ。だがまだ召喚権が残っていたのが幸いだったな。裏守を一枚セット、カードを一枚伏せてターンエンドだ。 「オネストは忌々しいカードではない。非常に有用。」 今まで黙っていた長門が急にしゃべりだした。どうやら俺が忌々しいって言ったのが耳に入ったようだ。まあそりゃ長門もライトロード使ってるんだし有用なのは分かるが・・・こっちとしては嫌なもんなんだぜ。 「・・・そう。でも環境を破壊するカードではない。」 そうだな。仕方ないなオネストは。分かったからこっちを微妙に睨まないでくれ長門。 「えーっと私のターンに入っていいかしら?」 ああすまん朝倉、デュエル中だったな。どうぞやってくれ。 「アルテミスで裏守に攻撃よ」 攻撃宣言時に聖なるバリアミラーフォースを発動だ。チェーンは・・ 「あるわ。罠にチェーンして神の宣告を発動。聖バリは無効にするね」 マジでくたばる5秒前、ずっと伏せてあったカードはブラフじゃないかったのか。やられたぜ朝倉。だがまだ俺のライフポイントは残るはすだ。 「罠カードをカウンターしたことにより、手札からヴァンダルギオンを特殊召喚。これで終わりね、キョン君。ヴァンダルギオンの攻撃!死になさい。」 まだだぞ朝倉、さっき破壊された裏守モンスターはネクロ・ガードナー。こいつを墓地から除外してヴァンダルギオンの攻撃は無効だ。間一髪、助かったぜ。 「惜しかったわね。ターンエンドよ。」 朝倉のライフは1400、俺のライフは400。朝倉のフィールドに伏せカードはない。だが、今の俺の手札では次のターン確実に終わりだ。朝倉の言うことを何か一つ聞かなくちゃいけなくなる。・・・長門がいるからそう無茶は言えないはずだが、そんなことより俺は負けたくないね。なんとかして勝ちたい。いくぜ、俺のラストターン、ドロー! きた。悪いな朝倉、この勝負俺の勝ちだ。 「手札にオネストがあるっていっても?」 朝倉はニコリとわざとらしく笑って言ったが、今の俺には関係ないね。オネストがあろうがなかろうが俺の取るべき方法は1つしかない。手札から魔法カード、地割れを発動。アルテミスを破壊するぜ。そしてハーピイ・クイーンとデスカリバーナイトを手札から除外して、ダーク・シムルグを墓地から特殊召喚! 「ヴァンダルギオンの攻撃力は2800。ダルシムじゃ勝てないわよ。」 ああ、わかってる。だが俺はまだバトルフェイズに入ってないんだな。ダーク・シムルグをリリースして、風帝ライザーをアドヴァンス召喚!起動効果でヴァンダルギオンをデッキトップに戻す。バトルフェイズ、風帝ライザーでプレイヤーにダイレクトアタック! 朝倉のライフが0になった瞬間、俺らの前に展開していたデュエルフィールドが消滅した。 「あ~あ残念。まさかあの状況から負けるとは思わなかったな。」 俺だって風帝を引かなかったら負けだったさ。まあデュエルの勝負はこういう逆転劇があるからこそ楽しいんだ。 「私の負けね。キョン君、何か1つ私に命令していいよ。賭けだからね。」 朝倉は柔らかく微笑んで言った。谷口がAAランク+をつけただけのことはある。心から笑ってる朝倉は朝比奈さんやハルヒにも劣らないほど可愛いね。さて、朝倉に何か命令・・・か。まあ言うことは決まっているんだが、どう伝えるか。 「あなたの思うことを言えばいい。私も賛同する。」 長門がそういってくれると心強いな。よし、なら言うぞ・・・ 「朝倉、命令だ。俺とまたデュエルしてくれ。」 朝倉はキョトンとして首をかしげた後、言った。 「今日はもう無理だけど、長門さんに頼んで情報封鎖空間をつくってもらえば私はいつでも・・・・」 そうじゃない。俺はこんな妙な空間でお前とデュエルしたいわけじゃないんだ。お前がまた北高に戻り、俺たちと一緒に普通の生活をしてほしい。ハルヒが世界改変を行ったとき、俺はみんなに会いたいと思った。そのみんなの中に、朝倉、お前も入ってたのさ。まあ教室でやるわけにもいかないだろうが、SOS団の部室に来ればいつでもできるさ。ハルヒには俺と長門から言っておけばなんとかなる。もしかしたらお前をSOS団に勧誘するかもしれない。これが俺の命令だが、どうだ?朝倉。 「私はそうしたいんだけど・・・統合思念体は・・・」 「今許可が下りた。一両日中に以前使用していたインターフェースを用意するとのこと。ただし能力は非常時を除いて制限される。」 決まりだな。長門、北高に転入してくるときはお前のクラスにしとけよ。 「なぜ?」 長門は黒曜石のような目でこっちを見てきた。何故かって?お前もSOS団にいる時だけじゃなく、クラスにも友達がいたほうがいいだろ? 「・・・・そう。」 長門は僅かにうなずいた。俺の目の錯覚じゃなければ、少し嬉しそうにみえた。 「この空間はあと33秒で崩壊する。」 長門は視線を朝倉へと移すと、淡々と告げた。周りを見ると、よくわからん幾何学模様が渦巻いてた空間が、徐々にいつもの公園の風景になっていく。 「今日はいろいろありがとう。キョン君、長門さん。私は楽しかった。」 見ると朝倉も徐々に光の砂になって消えていた。もう上半身しかない。 「じゃあね。それと・・・・・また明日。」 消える直前に朝倉は微笑み、消滅した。同時に空間も消えて、いつもの公園とベンチがそこにあった。 「・・・あなたのおかげ、感謝する。」 長門はそれだけ言うと、俺に背をむけて歩き出した。感謝するのはこっちの方だぜ、長門。お前が会わせてくれなかったら、朝倉は戻って来なかった。それにな、気を許せる同姓の友達ってのはどんなやつにもいた方がいいんだ。改変世界での朝倉は、お前のことをいろいろと気づかってた。最後に俺を殺そうとしたのも、長門を守る為だったんだろう。今となってはそう思う。 「パーミッションか・・・。やれやれ、明日も部室は決闘祭りだな。」 そう呟いて、俺は自転車にまたがって帰路へついた。 END
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ハルヒが誘拐された。 犯人は俺に4つの鍵を集めればハルヒを返すといった。 鍵というのは、SOS団の他のメンバーのことらしい。 つまり、SOS団が揃えばいいということらしい。 とりあえずハルヒを取り戻したい。そういう思いで俺は長門のマンションを訪ねた。
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(これは涼宮ハルヒの憂鬱を 格闘ゲーム化したら どんなふうになるのかを 予想したもの・・。) キョン -KYON- 「投げつけ」 【↑+A】 「叩きつけ」 【↓+A】 「空中蹴り」 【↑+↑+B】 「カウンター」 【←+B】 注意「技はゲージがMAX時しか使用不可能」 ━技名「蹴り殴キョンキョン」━ 「蹴り」 【B】 「2回蹴り」 【B+A】 「+強パンチ」 【↓】 みくる -MIKURU- 「みくるビーム」 【→+A】 「チェーンソー」 【接近して ↓+B】 「熱湯茶こぼし」 【→+B】 「エアガン発砲」 【B (連続押しで連発)】 「包丁切りつけ」.【B+A 同時押し】 ───技─── ━鉄パイプ刺し━ (ゲージMAX時) 通常に腹に刺す 【A】 顔に刺す 【+B】 即死刺し 【↓+A の後 →+B】 出現方法 「ハルヒ でSTORY MODE をクリア」 小泉一樹 - Koizumi - 「アナル槍刺し」 【背後で相手の方向+B】(女には無効) 「シイタケ殴り」 .【A(連続押しで連殴攻撃)】 「テドドン発射」 【↑で大きくし ↓+Aで発砲】 「テドドン射液」 【B(8回まで可能・行動停止する)】 「空中シイタケ」 【空中で A+B+B+A】 ─技─ (ゲージMAX時) 「キョンたん奪うYO」 【キョンに接近しA】 チームバトルのとき、 これを使うとキョンが仲間になる(キョンが敵の場合) 「シイタケ究極フィア」 1回目【A+↑】 投げ飛ばし 2回目【B+B】 (空中で) 射液2回 3回目【A+→】 とどめ 出現条件 「VIPスレッドタウン でVIPPERを9人犯す」 「キョン でホモハウスへいく」 長門 -NAGATO- パソコン投げ 【→+A】 ムチ攻撃 【A】(小泉にやるとシイタケカウンター) 銃発砲 【B】(連発可能。最大30発) ショットガン 【↑+B】(近ければ大ダメージ) マシンガン 【→+B】 マウス投げ 【↑+A】(連投可能) ─特殊攻撃─ 連続攻撃処理 【↓+B】 (連続攻撃・必殺技を相手が使っている 最中に押す) ───技─── ゲージMAX時 「情報連結解除」 【↑+→+↓+←+B】 10秒後発動。成功すれば相手消滅。 涼宮ハルヒ - HARUHI- かなりの最強キャラ 強蹴り 【A】(大ダメージ) ぶん殴る 【B】(大ダメージ) チェーンソー 【→+A】 (みくるのチェーンソーよりもダメージ大) 首絞め 【↑+A】(Aを連打すれば一時行動停止) 椅子攻撃 【↓+A】(中ダメージ。連打不可能) 日本刀斬【→+B】(大ダメージ。連打可能) ──技── (ゲージMAX時) 大波動砲 (火炎) 【A】 火炎放射の強化版発砲 大波動砲 (爆発) 【B】 (火炎)を撃った後に可能。即死。 ここから先は敵キャラになりまする ダーク古泉 =DARK HOMO= 最初 【殴攻撃 → 空中投げ →アナル砲】 ダメージ中【殴攻撃連続】 ダメージ小【即死攻撃 or 空中シイタケを連発】 死ぬ寸前【自爆。このときHPが少ないと死亡】 ゲージMAX キョンの場合 【アナル槍刺し。キョン即死。回避不可能】 長門の場合【戦闘終了。(長門は死亡しないで、)】 みくる・ハルヒの場合【↑と同じ。】 ラスボスの手下 「 1」 最初【スレ建て(HP回復)を行い、攻撃】 ダメージ中【豚投げ】 ダメージ小【VIPビーム】 死ぬ寸前【防御をずっと行う。】 ラスボスの手下2 「鶴屋さん」 【ハンドガン発砲】 受けるダメージは大きい 【ロケットランチャー】 1発使い捨て。食らうと即死 【ガトリング】 ダメージが少なくなるとずっと連発する 【にょろ】 34回、連続で殴る。1回のダメージは最小 LAST BOSS(キョン編) 「ダークハルヒ」 装備:血濡れ刀 【首斬り】ジャンプし、落下すると同時に首を斬る。即死 【心臓刺し】物凄い速さ。即死。しかし使用回数1回。 【振り回し】 左右に適当に振り回すwww -武器が【チェーンソー】に切り替わった時- 【首斬り】 即死。 【上下振り】 かなりの大ダメージ。食らうとHP1 【肩斬り】 肩にチェーンソーを乗せる。即死 LAST BOSS(長門編) 「朝倉」 【長槍刺し】 即死。長いので危険。 【生命処理】 謎の光に包まれると一発で即死 【武器処理】 されると、武器攻撃不能。技で我慢する 【足処理】 動けなくなる。(一時だけ、) 【生首入手】 首を斬られる。無論、即死。 LAST BOSS(ハルヒ・みくる・小泉) 「谷口」 【蹴り】 0ダメージ 【首絞め】 0ダメージ 【殴る】 0ダメージ 隠しキャラ みくる(スーパーコスチューム) 【↑+A】 みくるビーム・上 【↓+A】 地震マグニチュード9.0起こし ダメージ大 【→+A】 一回転蹴り 【←+A】 バルカン発砲 【A+A】 みくる雷ビーム 【B】 蹴り。(連発で40蹴り) 出現条件 「古泉 がキョンを犯す」 「涼宮ハルヒ ~ファイターズ・メモリ~」 税込み9800円 未発売中!!
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ハルヒ「本当、退屈」 キョン「ああ、そうだな」 ハルヒ「…………………」 キョン「…………………」
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ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その2から そんなこんなで、出発当日。 ハルヒから電話をもらった俺は、パッケージング・バイ・ハルヒのトランクを、俺の部屋から玄関へと運び、その到着を待っていた。 ほぼ予定時刻に、すでに涼宮家を満載したライト・バン型タクシー(?)が、うちの家の前に到着した。 「いわゆる空港行きの乗り合いタクシーだ。予約している飛行機の便を連絡しとくと、タクシー会社が調整して、ドア・トゥ・ドアで送迎してくれる。今日は、おれたちだけみたいだが」 とハルヒの親父さんが、運転手に代わってそのシステムを説明してくれる。 「それじゃあ、行ってくるから」 と家族に、特に妹に、言い聞かせるように旅立ちの挨拶をする。 「ご迷惑かけないようにね。涼宮さん、お世話になります」 「こちらこそ。無理を言ってすみません」 「いえいえ、うちの馬鹿息子は、本当にハルヒちゃんにはお世話になりっぱなしですから」 といった親たちのエール交換は、当人たちには「どうでもいい」というレベルを遥かに超えて「今日のところは、どうかひとつ、そこまでにしておいてくれ」というべき方向へどんどん発展していってしまう。 俺がハルヒの方を見ると、ハルヒも俺の方を見ていて、目の中で首を縦に振っている。よし、それじゃあ、 「そろそろ行かないと」 と俺が口火を切り、ハルヒはそれに合わせて、親父さんの脇をかるく肘でつく。 「ごほん。そうだな。じゃあ行ってきます」 大きな音で咳払いし、大きな声で親父さんが宣言。皆がうなずいて、車がゆっくりと前で出た。 「あれ、妹ちゃん」 車は走り出したが、妹が走って追いかけてくる。 うう、兄ちゃん、そこまでのドラマはいらないぞ。いつもどおりの妹でさえいてくれれば、カバンにこっそり入ってさえなければ。 「あれ、妹ちゃんが手に持って振ってるの、パスポートじゃないの?」 「わはは。お約束だな。大方、トイレに行っている間、持っててくれ、と預けたままってところか?」 親父さん、図星です。 車は止まり、俺とハルヒが飛び降りる。 俺はパスポートを受け取り、ハルヒは妹の頭をなでる。 「キョン君、気をつけていってくるんだよ。ハルにゃん、キョン君をお願いね」 「うん、わかったわ。絶対、元気にして帰すからね」 いや、それはやり過ぎと言うか、胸を張り過ぎというか。それから妹よ、あまり殊勝なことを言うな。そういう時は「お土産、忘れないでね」くらいにしておいてくれ。でないと、最近ただでさえゆるい兄の涙腺が……。 「ほら、キョン。ちゃっちゃと行くわよ。飛行機は、遅刻したナショナル・チームだって待ってくれないんだから」 確かに、ここでこれ以上ドラマを掘り下げたら、また搭乗まで話が進まなくなるだろう。 別れを惜しみつつ、いざ行かん、天国にだって近いという、なんとかいう南の島。 「それと、あんたのパスポート貸しなさい」 素直にハルヒに渡すと、ハルヒかバックから出した布製のケースみたいなのに俺のパスポートを入れて、返してきた。 「ほら、パスポート・ケース。これで首から下げられるから、なくさなくて済むわ」 「ちなみにお手製だそうだ」 「親父、うっさい」 午前の道は、俺たちの前途を祝福するかのようにガラすきで、空港へは登場予定時効の3時間前に着いてしまった。 「余裕があるに越したことはない」 と親父さん。 「俺なんか離陸の30分前に、食パンをくわえて出国審査を受けたことがある」 「あんたは転校一日目から遅刻するヒロインか!?」 ハルヒのつっこみも、今日は長打こそないが、確実に芯で捉えている。ボール(?)が見えている証拠だ。 「ちょっとチェックインしてくる。キョン君、わるいがそこのカートに積んでトランクを運んで付いて来てくれ」 「はい」 ハルヒの母さんとハルヒと俺のトランクをカートについて、自分のトランクを転がしながら先を行く親父さんの後を追う。 カウンターでは、これも親父さん的にはきっと恒例なんだろう。ナイストゥミーチュー、スパシーボなどなど、怪しい多国籍人を装う話術でカウンターのお姉さんの目を白黒させながら、それでも当初の目的を果たしてしまう。なるほど、ハルヒ母+ハルヒが、遠くで他人の振りをしているのは、このせいか。と、親父さんに気付いたのか、カウンターの奥の責任者っぽい人がカウンターにやって来た。 「ベルさん、今日は出張じゃなくて家族サービスかい?」 「何度も言うが、俺は鈴宮じゃなくて涼宮だ」 「こっちの彼は、お初だね?」 「ここはどこの飲み屋だ? こいつは保安官補でキョン。ついでにいうと、俺の娘と恋仲だ。まあ、いずれは決闘だな」 「おいおい、ハルヒちゃんも、そんな歳か。少年、しっかりやれ。この親父は悪いやつじゃないが質は悪いぞ」 「ははは」笑うしかないよな、ここは。 「おい、有能な彼女が手続きができたって、言ってるぞ」 親父さんは、ややオーバーアクション気味に、責任者さんに不平をいう。 「オーライ。じゃ、トランクに貼ったこのシールの切れ端を持ってってくれ。あとでトランクを探すのに役に立つ。ボンボヤージュ(よき旅を)!」 「発音がなってないよな。ま、とりあえず、ハルヒたちと合流するか」 その必要はなかった。カウンターでの一部始終を、涼宮家の女性軍は遠目ながらもしっかり見ていて、絶妙のタイミングで自分たちの位置を知らせるように歩いてきた。というより、彼女たち自体が、遠目からでも見落としようがない存在感やら何かを周囲に発散しているのだ。 そんな訳で、俺の隣にいた親父さんは言った。 「おい、いいだろ。あそこにいるのは、おれの女房なんだ」 「ぐっ」 さ、さすがにその手は……使うのは、何だかいろいろ怖い。 「すまんな。たまには年長者に勝ちを譲るのもいいもんだろ?」 その気になったら全戦圧勝じゃないですか、と心の中で言う。へたれ、俺。 「旅はまだ始まったばかりだ。陽気にいこうぜ、キョン君」 「ちょっと親父! またキョンをいじめたでしょ!?」 ハルヒが、つかつかつか、と早足でやってくる。ロボットのように肩をすくめる親父さん。 「オー、マイ、ドウター。ワタシガ、イツ、ゴシュジンサマ ヲ ソンナ メ ニ」 「読みにくいだけから、出典が明示できない物真似はやめなさい」 「でも、ふざけてるのはわかるだろ?」 と、ひらりとかわす親父さん。 「いつ真面目なのかが、わかんないの!」 それをも狙い打つ娘ハルヒ。 「いつもこんな感じよ」 と日だまりのようなニコニコ笑顔を絶やさないハルヒ母。 「はあ」 とすでに慣れてきているが、それがよいことなのかどうか、未だに判断がつかない俺。 次は手荷物検査場はずだったが、 「ああ、キョン君、俺たちはこっちから行こう」 「向こうの列、すごく混んでましたね」 「手荷物検査場はどうしてもなあ。関西の空港も優先ゲートができて助かってる」 「親父、わがままなくせに、待ったり並ぶのが嫌いだからね」 「わがままだから、嫌いなんだ」 俺たちが向かっているのは、専用ゲート(専用保安検査場)というところのようだった。なんたら会員(ゴールド・メンバー?)になっておけば、ただでさえ混む手荷物検査場も専門の(つまり空いている)検査場で済ますことができるし、さっき預けたトランクも優先取り扱いされて、到着後あまり待たずに受け取れるのだとか。どうすればメンバーになれるかって?親父さんによれば、 「要はたくさん飛行機に乗りゃいい」 だそうだ。 「といっても、伊丹じゃ、もう何が優先やら、って感じで混んじまってるがな」 優先検査場というだけあって、手荷物検査はあっけなく済んでしまった。ありがちな時計やらキーケースなんかの出し忘れを、事前にハルヒのやつに注意されていたからではないこともない。 「出国検査場じゃ、こうはいかんぞ」 とニヤニヤして脅す親父さん。 「おどかすんじゃない。パスポートにハンコ押してもらうだけでしょ」 とつっこむハルヒ。ほんと、いつもこんな感じなんだろうな。 「ハンコ押すだけだが、国の外に出しちゃいかんやつもいるからな」 「このメンバーだと、親父よね」 「笑い事じゃないぞ。俺のツレなんか、家族旅行なのに、昔やった悪事がバレて大変だったんだぞ」 「だったら3人でバカンスを満喫するまでよ」 「だから、ツレの話だよ」 出国検査場もまた、なんということもなく、一人づつパスポートを見せ、ハンコを押してもらう。 ハルヒの親父さんのパスポートは、さすがにすごいハンコの数だ 「全部、仕事でだ」 と、やれやれ顔をつくって親父さんは言う。 「早く引退して、ひきこもりになりたいよ」 「親父がひきこもって何する気よ」 「庭でライオン飼って、夕方になったらドビュッシーを弾く」 「なにそれ?」 「映画だ、『007カジノ・ロワイヤル』の古い方。見たことないのか? あの希代のバカ映画を」 とりあえず、これで「出国OK」ということだな。形的には、一応これで外国に出た、ってことになるのか。 「向こうに専用ラウンジなんてものもあるが、おまえら、どうする? 搭乗までは、まだ結構時間はあるが」 「免税店とかあるんでしょ? ちょっと見て回るわ」 とハルヒはすでに、俺の手首を引っ掴んで、スタンバイの体勢。 「さっそく二人になりたい、とハルヒは思った」 オヤジさんは肩をすくめてみせる。 「へんな心理描写いれるな」 「じゃ、これからは茶々を入れてやる」 「よけい悪い! あんまりかわらないけど」 「検査が全部済んだと言っても浮かれるなよ。確率的には、今から搭乗するまでが、一番馬鹿みたいな失敗が多い」 「大丈夫よ」 ハルヒもおれも、パスポートとチケットは、ハルヒ謹製のパスポート・ケースに入れてある。 「時間厳守だぞ。時間が来たら、ナショナル・チームでも飛行機は待たんからな。で、おまえら時計持ってるのか?」 「あ」 「普段ケータイで時間を見てるような連中は、こういうはめに陥る。免税店で安いやつを見繕ってこい」 親父さんに一本とられたのが悔しいのか、ハルヒはアヒル口になって、無言で俺を引っ張っていく。 ハルヒの母さんはニコニコと俺たちを見送り、自分の鞄から布のブックカバーをつけた文庫本を出して読み始める。親父さんもそれに合わせてか、上着のポケットからペーパーバックを取り出す。 ハルヒは振り返らず、前だけを見てぐんぐん進む。俺は引かれていく。 「時計なんて、空港中いたるところにあるじゃない!」 「まあな」 「向こう着いたら、時間を忘れて遊ぶんだからね!」 「ああ、そうだな」 ハルヒはどこからかカードを取り出した。正確には取り出して構えた。 「腹立ちまぎれに無駄遣いしてやるわ」 「こらこら」 なんなんだ、その高級そうなクレジット・カードは? 「ブランド品なんかに興味はないけどね」 何故だか、恨みはないけどね、と聞こえるぞ。 「店ごと買うとか言うなよ。機内持ち込みできんぞ」 「わかってるわよ、そんなこと」 そりゃ、わかってるだろうけどな。 「ねえ、キョン。あんた、すごーく高い時計欲しくない?」 ほら、そうやって必ず不穏なことを思いつくんだ、おまえは。 「おまえはどうすんだ?」 「そんなの2つも買えないわよ。すごく高いんだから」 「全然高くないやつ、2つにしろよ」 「だーめ。もう決めたの」 「ヤクザかナンバーワン・ホストでなきゃ持てないような時計はいらんぞ」 「あほ。そんな時計、あんたに似合わないわよ」 じゃあ、「俺に似合う、すごーく高い時計」を探しているのか? それはすごーく嫌な予感がするぞ。 「はい、これ。安心しなさい。何十万も、何百万もするものじゃないから」 「あ、ああ」 「総称でパイロット・ウォッチって言ってね、文字通りパイロットがつける腕時計ね。元祖のブライトリング社のなら、満十万するけど。この文字盤の周囲についてるリングがあるでしょ。これが回るの。目盛りの刻み方が変なのに気付いた? これ回転計算尺になってるの」 「計算尺ってなんだ?」 「計算が、とくにかけ算と割り算だけれど、一瞬でできるものね。尺という位で、物差しタイプが一般的だけど、それを円形にまとめたものがこれ。パイロットは計器やコンピュータがみんな狂っても、残燃料と空港までの距離だとか、落下速度と地上までの距離とか、計算したいものが沢山あるでしょ、それも時間がらみで。だから時計に計算尺をつけたのは大正解ってわけ」 「ほう」 「わかってないわね。親父の腕時計、見た?」 「え?いや」 「まあ、あっちは元祖の本物だけどね。何万年に数秒しか狂わない電波ソーラー式時計の時代に、毎日10秒以上も狂う自動巻時計って何考えてんのかしらね。計算尺の使い方は、どうせ搭乗まで暇だからゆっくり教えてあげるけど、親父に聞けば、語りに語り続けるわ。旅行が終わっちゃうわね、多分」 わー、すげえ聞きたいが、今は聞きたくない感じ。 「だが、ひとつきりで、どうすんだよ」 「まだ、わかんないの?」 いや、わかってはいるが、今わかるわけにはいかない、というか。 「あんたがあたしの『時計係』になるに決まってるでしょ」 ラウンジの、ハルヒの親父さん&母さんのところに戻った。ハルヒが鼻息も荒く、俺の左手首を、とくに親父さんに、見せびらかすように高らかにあげる。俺は自由になる右手でこめかみを押さえる。オー、ジーザス。ああ、ほんとにすいません。 親父さんは「やれやれ」という意味のジェスチャー、ハルヒ母は読んでいた文庫本を口に当てて笑いがこらえられない様子だ。 「娘よ、やってくれたな」 「どう? ぐうの音も出ないでしょ?」 「負け惜しみで言うんじゃないが、キョンを日本に置いていったらな、どこかのバカの国際長電話代で、そんなもの5、6個は買えたぞ」 「と言ってる時点で、完全に負け惜しみね」 「ぐう」 しかたない、といった感じで本をしまったハルヒの母さんは、 「お父さん、いつ搭乗口に向かいます?」 「もう15分もすればアナウンスがあるだろうが、少し遅めに行こう」 「そんな、とろとろとしたことでいいの?」 腰に手をあてて胸を張り、暫定勝者ハルヒが親父さんを見下ろす。 「日本人は時間とアナウンスには従順だからな。合わせて動くと混雑を応援に行くようなもんだ。俺たちの席は前の方だから、少し遅れて乗り込む方が邪魔にならなくていい」 「あー、たいくつ、たいくつ!」 電車の長椅子に上って窓を見たいから靴を脱がせろと騒ぐ幼児のように、暴れ出すハルヒ。涼宮家ではこれにどういう風に対処するのか、後学のためにしばらく見ていよう。 「なんのために、キョンを連れてきたんだ」 って、親父さん、いきなり俺頼みですか? ハルヒの母さん、もう笑いスイッチ入ってますね? 「キョンはそんなんじゃなーい」 お、ハルヒ。あまり期待してないが、言ってやれ。 「キョンはね、キョンはね・・・」 それじゃ、古来の、針が溝をなぞっていた頃の壊れたレコードだ。 「・・・うー……と・に・か・く、キョンなのよ!」 「随分とテツガク的な惚気をありがとう」いや親父さん、今のは惚気では、ないと思います、よ。 「ハル、暇なら何か読む?」 「うん。母さん、何持ってきたの?」 「旅行には、やっぱり旅行記よね」 「って、えーと、クセノポン『アナバシス』? カエサル『ガリア戦記』? クラウゼヴィッツ『ナポレオン戦争従軍記』? って、全部、旅行記じゃなくて戦記でしょ!」 「あら、でもみんな遠征してるわよ」 「遠征は、旅っていえば旅だけども!」 「俺のを読むか?」 「期待しないけど、聞くだけは聞いてあげる。・・・Making a Good Script Greatって、何これ?」 「映画のシナリオをどう書き直すかのマニュアル本だな。ハリウッド映画だと、制作費が馬鹿でかくて映画が当たるか当たらないか不確定だから、映画自体に保険をかける。保険会社がキャスト表とシナリオを分析して、これだと当たりそうだから保険の掛け金は低くてこれくらいでいいや、このシナリオだとヒットしそうにないから掛け金を高くしよう、ってな具合にな。で、保険の掛け金を低く抑えたい映画会社やプロデューサーは、シナリオを『シナリオ・コンサルタント』のところに持っていくんだ。シナリオ・コンサルタントは元のシナリオの長所を生かしながら短所を修正していくんだな。どうやれば冒頭シーンで客を引きつけられるとか、どうやって泣かせるとか、いろいろ手練手管がある訳だ。これはそのシナリオ・コンサルタントの一人が書いたマニュアル本で・・・」 「そんな本読んで、どうしようっての?」 「あ、この映画はあの手をつかってやがる、ちがう、そこで例の手を使えばいいのに、といろいろ突っ込めて楽しいぞ」 「キョンは、あんな悪魔に魂売っちゃ駄目だからね」 俺はすこーし、その本を読むのもいいかもしれん、と思ったぞ。次作の超監督とかが。俺が読むと、俺が窮地に陥る気がしたので、口にはしないがな。好事魔多しとは、こういうことを言うんだろうか。 日本語と英語で、搭乗開始を知らせるアナウンスが流れた。 あちこちで腰を上げ、指定された搭乗ゲートの方へ流れていく人たち。親父さんと母さんは読書を続け、ハルヒと俺は、買ったばかりの腕時計の計算尺リングを回して、1.69×2.7といったかけ算をしているのだが、頭を付き合わせ、手を取り合って、何をしてるように見えるんだかね。 「人ごみが薄くなってきた」 親父さんがゆっくり腰を上げた。他の3人もそれに合わせて立ち上がる。 「ぼちぼち、ぶらぶら、まったり、行くか」 とにかく全く急がないで進もうという親父さんの提案に、他3人はそれぞれ違った風にうなずいた。多分、考えていることなんかも、それぞれに違っているんだろう。 搭乗口は、さっきまでゴッタ替えしていたようだった。自動改札みたいなのの側に係員のお姉さんが立っていて、そこでチケットを入れると、席の位置を示す半券みたいなのが出てくる。 親父さんはシナリオのリライト・マニュアルを読みながら、チケットをいれ、 「パスポートは?」と問いかけ 「あ、拝見します」という返事を待たずに、ポケットからパスポート入れを出して係員に渡している。あれもハルヒ謹製と見た。 「何をやるにも不真面目ね」 続いてハルヒがぷんぷん怒りながら通っていく。続いて俺。最後がハルヒの母さん。さすがに本はしまってある。 「思ったより、飛行機飛んでないわね」 大きなガラスの向こうの滑走路を見ながら、ハルヒの母さんが言う。 「国内便はみんな伊丹にいっちまった。午前10時から午後4時まで、ここから成田へ行く飛行機は一機もないそうだ」 という親父さんの答えに、 「そうなの」とハルヒの母さんはつぶやいてチケットをしまった。 すでに搭乗予定のほとんどの人が乗り込んでおり、飛行機の中に入ると中にはぎっしり人が詰まっていた。 親父さんが言ってたとおり、俺たちの席は、入り口からたいして離れていないところにあった。 ハルヒに窓側を譲ろうとしたが、「キョン、あんた始めてなんだから、あんたが窓際行きなさい」と頑として聞かない。 ようやく俺の頭に、いつぞやの古泉の言葉が浮かんだ。 「わかった。じゃあ窓際に座らせてもらうぞ」 「どうぞ」 3人がけの席で、ハルヒは俺の隣に座る、その向こうが通路側になりハルヒの母さん。親父さんは通路を挟んで、さらにその向こうに座る。 機長の自己紹介やら、救命設備の説明アナウンスやらが流れて、スチュワーデスさんが踊っているように装着の実演をやっていた。 「最近はビデオ流して済ますのが多いがな。マイナーな路線ほど、今のダンスが見れる」 2つ席の向こうから、親父さんが解説してくれる。 こうしてしっかり席についてから、離陸のために飛行機が滑走路を走り出すまでの時間がけっこう長い。これだけでかい空港でも、滑走路の数は少なくて、待ち時間なんかがあるためだそうだ。 全然別の経験なんだが、予防注射って奴は、注射のちくりという痛みよりも、注射されるまで並んで待っているのが案外つらいんだよな。 気がつくと、ハルヒの母さんの、ニコニコという音がほんとにしそうな笑顔からも、親父さんの何故か声はしないが「ゲラゲラ」というのが伝わってきそうな笑いからも、どこか生暖かい視線にも似たものが飛んで来ていた。 なるほど。そういえば、いつも騒がしいとなりの奴が、席に着いた途端に、借りてきた猫のようじゃないか。 「なあ、ハルヒ。ひょっとしておまえ、飛行機こわいのか?」 「ば、ばかじゃないの? 怖いわけがないじゃない!」 「鉄の塊が飛ぶのは、おかしいとか、信じられないとか、その手の類か?」 「こ、こんなもんはね、目つぶって寝てたら、いつのまにか現地に到着してるものなの!」 「それだと機内食も食えないだろ。ほら、手、貸せ」 「は?なに?」 「手だ。握っといてやる」 「あんた、ばかじゃないの。……親もいるってのに」 「かまわん。俺は気にせんぞ」 「あんたが気にしなくても、あたしが気にするわよ……その、ちょっとは」 「じゃあ、そっちの目はつぶってろ」 「意味わかんない。……わかったわよ、握ればいいんでしょ、握れば」いかにも渋々といった感じで、俺の手を取りに来る。 「……離したら、承知しないからね」 「母さん、ピンチだ。たすけてくれ。自分の娘と婿に萌え死にそうだ」 「まだ婿じゃありませんよ」 「『恋愛が与えることができる最大の幸福は愛する女性の手を握ることである』(スタンダール)」 「何か言いました?」 「いいなあ、って言ったんだ」 「飛行機に乗るなんて、いつものことじゃありませんか」 「忘れられんフライトになりそうだ」 その4へつづく
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第二十ニ章 ハルヒ ビジネスジェット「Tsuruya」号は、滑走路に滑り込んだ。 機体が制止すると共に、お馴染みの黒塗りハイヤーが側にやってきた。 「とうちゃ~~く!さあ、客室の皆さんは、とっとと降りるにょろよ!」 通常の旅客機ならば1時間半は優に掛かる行程を、僅か50分でかっとんで来た「Tsuruya」号の搭乗口に立ちながら、客室乗務員姿の鶴屋さんは俺たちを促す。俺たちはぞろぞろと昇降口から滑走路に降り立ち、黒塗りハイヤーに向かった。だが、その前に。 俺は、昇降口に立ちこちらを見送っている鶴屋さんのところに駆け寄った。 「鶴屋さん?」 「何かなっ?」 「今回はご協力ありがとうございました。このご恩は一生忘れませんから」 「……良いってことさ。こんな事しか、あたしは出来ないからねっ!そんな事改めて言われると照れるっさ!キョン君もこれから頑張ってねっ!あ、それから」 鶴屋さんは、とびっきりの悪戯を思いついた子供のような笑顔でウィンクしながら、こう言った。 「ハルにゃんをよろしくねっ!もう離しちゃだめだぞっ!」 黒塗りハイヤーは俺と古泉、長門を乗せたまま高速道路を滑るように走っていく。運転手は新川さんだ。 以前俺が3日間入院していた『機関』御用達の病院が目的地だ。そこに、ハルヒはいる。あの時、駅で倒れ昏睡状態になったハルヒは、一旦ホテルに運び込まれたものの意識が戻らず、現在は件の病院に入院しているのだという。ハルヒの両親も、入院した当初は昼夜通して看病していたとの事だが、全く覚醒の兆しがない事から、最近では日中のみ、母親のみの付き添いになったと、古泉が説明してくれた。 「ということは、今行くとハルヒのお母さんに会う事にならないか?」 「そうですね。ではこうしましょう。緊急検査のためということで、涼宮さんを別の病棟に移し、そこであなたと涼宮さんを引き合わせる様に手配します」 「そっか。だが、俺がハルヒに出来る事なんて限られてるぞ。しかもアイツは意識がないんだろ?」 「大丈夫です。涼宮さんはあなたをずっと待っているのですから、必ず何らかの反応があります」 いつものスマイルで俺にそう断言した後、古泉はぽつりと呟いた。 「……悔しいですがね」 その言葉を忘れようとするように携帯を取りだし、いずこかへ電話する。多分、病院への手配だろうな。 高速から見える風景が、段々と馴染み深いものに変わってきたとき、ハイヤーは高速を降り一般道に入った。窓から見える風景が、懐かしい。あの引っ越しからもう1年経ったのか。ぱっと見は全く変化がないようにも見えるこの町だが、自分の記憶と違う部分もあちこちにある。僅か一年とはいえ、変わっていることを実感した。そんな俺の個人的な感慨を無視したように、ハイヤーは病院の裏口に滑り込んだ。 「こちらです」 先導する古泉の後を歩く俺と長門。既にハルヒは特別病棟の個室から検査室に移動しているとの事だった。 俺たちは一般入院患者や見舞客の目を避けるように、検査室とやらのある病棟に向かった。 「現在、涼宮さんの状態に変化はありません。身体、脳波共に異常ありません。ただ、未だに目を覚まされておりません。『閉鎖空間』も現状維持のままのようです」 「……現在、涼宮ハルヒに特別な異常は認められない。肉体的には全く正常。精神的な乱れも特に無い」 古泉の報告を長門が補強してくれた。分かった。あとは俺が何とかするしかないんだな。 「……そう」 「期待してます……ああ、こちらですね」 古泉が『第3検査室』と書かれたプレートが下がったドアを開けると、そこにはベッドに横たわるハルヒが居た。若干痩せた感じはするが、まるで眠っているかのようなハルヒの顔。しかし、その腕には点滴用のチューブが刺さり、長期間意識が戻らないという古泉の話を裏付けていた。 「……ハルヒ」 思わず俺は、目の前に横たわっている少女の名前を呼んだ。反応は、無い。 「ハルヒ、俺だ」 ベッドの脇の簡易なパイプイスに座り、ハルヒの手を取る。その手は冷たかった。 「戻ってきたぞ」 ハルヒの手が、以前よりも小さく細く感じる。 「そろそろ起きろ」 トレードマークのカチューシャは付けておらず、ベッドの脇に掛けられている。 「遅刻するぞ」 綺麗な寝顔。あの時見たロングヘアは短く切りそろえられ、見慣れたショートカットになっていた。 「今回の罰金はお前だからな」 そんな俺の行動を見ていた古泉と長門だったが、しばらくすると俺とハルヒから視線を外した。 「僕たちは、席を外します。後はあなたにお任せします」 「……頑張って」 そう言って退室する古泉と長門に、俺は目線で感謝の合図を送った。 まるで眠り姫のように微動だにしないベッドの上の少女。一年前にコイツに告白したときも、寝顔を見ながら色々考えていたっけ。少女の寝顔は、その時と同じで綺麗だ。ただ、目を覚まさないことを除けば。 いつの間にか、そんな少女に俺は語りかけていた。 なあ、ハルヒ。お前、いつまで寝てるんだよ?腕からチューブ生やしてさ…… しかも医者が異常なしって言ってるんだぞ?端から見てればギャグだぜ、これ。 そろそろ目を覚ましてくれないか?俺、お前に謝らなければいけない事が一杯あるんだよ。 古泉とお前のことを誤解してたこと。お前と同じ大学行けなかったこと。パーティをすっぽかしたこと。 それから、それから…… 俺の言葉にも全く反応を示さないハルヒの手を握り、いつの間にか俺は泣いていた。 何が『神の鍵』だ。俺は、今こうやって目の前に横たわっているハルヒに、何にも出来ないじゃないか。 ちくしょう、ちくしょう…… どのくらい経ったのか。泣き疲れた俺は、涙を拭きながら改めてハルヒを見た。ハルヒは俺が入ってきた時と全く変わらない。華奢なその身を俺の前に横たえている。 ただ、一つだけ違いがあった。ハルヒが……泣いている?閉じられた両目から、涙が流れていたのだ。 反応してくれた! 俺はハルヒの頬に手をやり、耳元で呟いた。 「ハルヒ。俺はここだ。お前の側にいるから、早く起きろ。起きて、いつもの笑顔を見せてくれよ」 ぴくり、とハルヒの体が反応した。 未だ瞑ったままのハルヒの両目からは止めどなく涙が溢れ、その端正な口から譫言のような言葉が漏れた。 「……キョ……カキョン……んと…に……」 ハルヒ!気付いたのか??ハルヒ??俺は必死になってハルヒの耳元でハルヒを呼び続けた。だがハルヒは譫言を繰り返すだけで、一向に目を開けようとはしない。 「ハルヒ!ハルヒ!」 いくら耳元で叫んでも、目を覚まさない。ハルヒの口からは、意味の成さない譫言が流れるばかり。 「どうかしましたか?」 「……」 おそらく部屋の外で待機していたであろう古泉と長門が慌てた様子で入ってきた。ぶつぶつと譫言を繰り返し涙を流し続けるハルヒを見て、古泉は「担当医を呼んできます!」と廊下に走り出ていった。 「……涼宮ハルヒの体内反応の活性化を確認。体温上昇中」 まるで計測機器のように、正確に現状を報告する長門。 だが俺は、そんな彼らの行動など気にも留めず、ひたすらハルヒの耳元でハルヒを呼び続けていた。 『白雪姫って、知ってます?』 『Sleeping Beauty』 突然、頭の中にこの言葉がひらめいた。もう2年半以上前、初めてコイツの作った『閉鎖空間』に二人きりで閉じこめられたときに、脱出のヒントとなった言葉。朝比奈さん(大)と長門のヒント。 これか。これしかないか。 「……宮さん…反応を……っちです……」 開け放たれたドアから、古泉が医者を伴って近づいてくるのが分かる。俺のすぐ脇には長門がいる。 だが、かまうものか。 俺は、譫言を繰り返すハルヒの口を強引に自分の口で塞いだ。 ハルヒ、戻ってきてくれ……その想いと共に。 第二十三章 スイートルームへ
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キョン「…ん」 会長「気がついたか?」 キョン「会…長…?」 会長「そうだ。ようやく起きたようだな」 キョン「・・・・・ハッ!長門は!?ハルヒは!?朝比奈さんは!?古泉は!?」 会長「落ち着け、古泉はそこでグッスリ寝ている。他の三人は喜緑君と向こうの部屋で寝ている」 キョン「…よかった」 俺は気を失う前の状況を鮮明に思い出してみた。 確か鬼道丸とかいう奴を見た瞬間に身体が動かなくなり、相手が俺を断殺する…と思いきや気を失い目が覚めたらここに寝ていたんだな そんなところだろう それはともかくとして、俺達はあの状況から一体どうやって助かったんだろうか? 会長「それは私にもよく分らんのだ」 キョン「助けてくれたのは会長じゃないのか?」 会長「ふむ、私は正直もう駄目かと思った。辞世の句が頭の中で流れた程だ」 キョン「なんだと・・じゃあ一体誰が…?」 会長「其れが良く分らんのだ。いきなり白い煙が私の視界を奪い、暫くして再び辺りが確認できるようになった頃には、あの紅の男も他の黒い服の忍び達も消えていた」 喜緑さん「そうなんですよ」 キョン「喜緑さん」 喜緑さん「安心して下さい。他の子達はまだ眠ってます。貴方は早起きさんなんですよ」 キョン「はは…しかしこれからどうするかな…この刀は相変わらず鞘から抜けないんだよな」 会長「…抜けないならやはり其れなりの理由がある筈だ。何もその刀を抜く為に行う方法が一つしかないとは限らない」 キョン「どういう事です?」 会長「相模の町外れ、刀匠の小屋よりも更に町の外れに天狗の森がある。」 キョン「それはこの前に話した…」 会長「そう、古泉が説明した森だ。相模天狗の森と呼ばれ町民は誰一人近づかないが、そこに住む『相模天狗』と呼ばれる仙人に話を聞けば何か分かるかも知れない。その刀の抜き方とやらがな」 キョン「なるほど…つまりそこに行ってみるのも一つの手という訳ですね」 古泉「僕は大賛成です」 うおっ!起きてたのか古泉! いつの間にかハルヒ達まで… …どこかで同じようなネタをやった気がしなくも無いが、そんな事は気にしないぜ 古泉「天狗の森に住む長は法力、仙力を司ると言われています。あるいわ、その刀を仙力で抜いて貰えるかもしれません」 ハルヒ「悪くない話じゃない。行きましょうよ」 みくる「で、でも…」 ハルヒ「どうしたのよみくるちゃん?」 みくる「昔母から聞いた事があります…相模天狗の森には強力な仙力で操られている『木人』達がいるって…」 古泉「僕も聞いた事があります。腕の立つ盗賊達が、相模天狗の森に存在する【天狗の宝】を盗もうと試みるらしいですが、何人も逆に命を落とすと…そのぐらい木人達は腕が立つらしいです」 みくる「ふええ…」 長門「大丈夫…」 キョン「…何故そう言い切れるんだ?」 長門「…いっくんがいるから////」 ハルヒ「…」 古泉「…」 キョン「…」 会長「…」 喜緑「…」 みくる「・・・・・」 ハルヒ「…そ、そうよ!古泉くんだっているし、アタシもそんな木の人形なんて瞬殺してやるわ!!」 キョン「だな!俺達なら大丈夫だ」 古泉「皆で力を合わせましょう」 一同『お―――っ!!!』 ハルヒ「…はぁ」 ん?ハルヒの様子が何かおかしいな・・・ ==安土城== 鬼道丸『……』 ???『不服か?鬼道丸』 鬼道丸『…貴方様を否定するつもりは御座いません。ですが、その考えは理解に苦しむ』 ???『フフフ…彼等にはまだ生きて貰う…私の楽しみを潰すな。影の軍上忍、鬼道丸よ』 鬼道丸『…』 ???『もし、どうしても彼等を斬りたいと御前が謂うのならば、私を斬って行くが良い』 鬼道丸『…御冗談を』 ==安土城==~無想の間~ 夢幻坊『何故止めたか…か』 鬼道丸『あの程度の剣術家は探せば幾らでも見つかる。ましてや忍者…』 夢幻坊『【あの御方】は昔から伊賀に異常なまでの拘りがある。それも理由の中の一つだろう』 鬼道丸『……剣の腕を磨き、剣の理を一つ知る度に【あの御方】が遠くなって行く。一つの段階を越えると、一歩遠くへ行く…そんな感覚……化け物めが…』 夢幻坊『信長様が蘭丸と同様に信頼を置く男だ。おそらく剣術に於いて右に出る者は居ないだろう』 鬼道丸『・・・・・私は…全ての剣術家を越える』 ==相模天狗の森、入口== キョン「しかし近くまで来てみると一層不気味な森だな」 古泉「この森から滲み溢れる力…なるほど、確かにこれでは誰も近づきませんね。案内御苦労です。会長と喜緑さん」 会長「うむ、私達はここまでだ」 ハルヒ「一緒に来るんじゃないの!?」 喜緑さん「そうしたいのはヤマヤマなんですけど、私達もやらなきゃいけないことがあるんです」 古泉「名探し…ですか」 会長「正確には記憶探しだ。今度は安芸の方まで行ってみようと思う」 みくる「見つかるといいですね・・・記憶」 会長「一度無くしたものはそう戻らん…だが精一杯努力はしてみるさ」 そう言って微笑んだ会長の顔は男の俺から見ても格好良かった 二人は歩いて去っていった 俺達は、二人の姿が見えなくなるまで手を振り続けた キョン「よし…行くか」 長門「…待って」 キョン「どうした長門?」 長門「…後ろから何か大きな力を感じる」 キョン「大きな力だと・・・・」 古泉「・・・どうやらあの方のよ・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・馬鹿・・・・な・・・?」 俺達が後ろを振り向くと、そこには一人の道士と思われる少女が立っていた ???「――」 ハルヒ「誰よアンタ?」 ???「――九曜――」 みくる「九曜さんですかぁ?」 九曜「――こく――」 俺は色々驚いていた まずこいつの服装だ。今までに古泉に似た服装の奴は何人か見てきたが、こいつは似てるなんてもんじゃない…そっくりだ そして髪が異常なまでに長い…顔は美人だが…ぐへへって何を考えているんだ俺は!! 古泉「…!!」 …? 俺は古泉の異常に気がついた 爽やかなこいつらしくない汗を書き、歯をガチガチと震わせている どうした古泉? 古泉「…森の中に逃げましょう」 …なんだって? 古泉「ですから森の中に早く行きましょう!!」 落ち着け古泉 森の中は危ないんだ。とりあえず皆の心の準備をだな 古泉『「そんなことを言ってる暇はないッッ!!!」』 とてつもなく大きな声に、俺達は驚いた ハルヒ「ど、どうしたのよ古泉くん…?」 みくる「ふ…ふええ…?」 長門「いっくん・・?」 古泉「あれは…ヤバいんです…僕は…僕は逃げなければ!!!」 ハルヒ「ちょっとキョン!古泉くんどうしたのよ?」 キョン「俺が知るか!ただ…あいつの表情を見る限りあそこにいる九曜って奴がヤバそうって事ぐらいだ。とりあえず古泉の言う通りみんなで森に行こう」 ハルヒ「でも森の中も危険って…」 キョン「お前らしくない言葉だなハルヒ…どうしたんだ?」 ハルヒ「えっ…!?なっなんでもないのよ!そうね、いつも冷静な古泉君がこんな風になるなんて異常だし、とりあえず皆森に逃げましょう!!」 みくる「ふええええ~心の準備が」 長門「…そんなこと言っている暇はない」 みくる「…はいぃ…」 古泉「こっちです!!」 先に森の中へと走り出す古泉。 俺達もその後について行った 九曜「――逃げ――た――?――」 涼宮ハルヒの忍劇13
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ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その7から シャワーの音が止まった。 少し経って浴室のドアがゆっくりと開く。 俺はベッドの端に、そっちには背を向けて座っていた。 「スケベなこと考えてる顔ね」 「そんなことはない」 「だとしたら失礼な話よね」 こっちに近づいてきた奴が、後ろから俺の首に両手を回してくる。 「だいたい、うしろからじゃ見えないはずだろ」 「あんた、背中までポーカーフェイスのつもり?」 「ただの仏頂面だ」 「ホテルの最上階。二人っきり。邪魔が入る恐れなし。タオル一枚の美女が背中に体重をかけてくる。これで何が不足か、聞こうじゃないの?」 俺はゆっくりと口を開いた。 「子供の名前を考えてた」 「うっ。……なかなかやるわね」 「うそだ。最悪のタイミングで、ムードぶち壊しのことを言うことになるかもしれんが、この旅行ももうすぐ終わりだ。だから率直に聞くぞ」 「……いいわよ。あんたが空気を読めないで不躾なことを聞くのは、べつに今に始まったことじゃないわ。どうせ……」 「あのケンカの後、親父さんはめずらしく本気で怒ってた。おまえ、『足で砂を目に投げた』って、意味わかるか?」 「その通りの意味でしょ。あのとき、あたしははだしだったし、足の指で少しくらいなら砂をつかめるわ。手でするみたいに、足を振って握ったものを離せば、投げるみたいなことはできるわね」 「それは、涼宮ハルヒがやることか?」 「どういう意味よ」? 「買いかぶりならそう言ってくれ。俺の知ってるハルヒは、そりゃ時にはめちゃくちゃなやり方をすることはあるが、それでもおまえなりの筋ってものを守る奴だ。あれは親父さんのいうとおり『汚い手』なのか?」 「そうよ」 ハルヒは挑むような目で言った。「だから、何?」 「何故だ?」 「勝ちたかったからよ、当たり前じゃない!」 「当たり前じゃない。お前と親父さんのケンカはそういうんじゃなかっただろ?」 「何も知らないくせに、勝手なこというな!」 「ああ、何も知らんさ。だけどな!」 「うるさい!うるさい、うるさい!」 「ハルヒ!」 「どうせガキっぽいひがみよ、あんたが!……あんたはひどい目にあっても親父をかばって……、あんたはそういう奴よ。あたしの親で無くても、そうするだろうって、分かってる、でも……」 「おまえの母さんや親父さんこと、俺は正直すごいと思ってる。まあ、おまえの親じゃなくても、そう思うかもしれないが……、あの人たちに会ったり話したり昔のことを聞く度にな、俺がまだ気付いてないハルヒに光があたって、今まで見えなかったハルヒが見えるような気がするんだ」 「あたしはあんたにむちゃくちゃ言って、むちゃくちゃさせて、でもそういう風に許されるのは、甘えられるのは、あたしだからだ、って思いたかった。だから、だからあんたが親父をかばって、あたしは完全に頭に血がのぼったわ。あんたをどんなことをしてでも取り返さなきゃ、どんな手を使っても勝たなきゃって。あんたにだってわかるように、親父とのケンカは勝つとか負けるとか、そういうんじゃなかったのに。親父が怒るのも、悲しく思うのも当然よ」 「あーもう、ぼろぼろ泣いて、めちゃくちゃ。……こっちみるな!」 「どうして?」 「あんた、変態? どS? 人泣かしといて、楽しむなんて」 「べつに楽しくはない。……ちょっと抱きしめていいか?」 「このエロキョン! いいに決まってんでしょ!!」 「雨になりそうね、お父さん」 「気圧の変化か。つらいのか?」 「少しはね。でも、起きられないほどではないわ」 「置き引きシスターズも雨天は休業か」 「人気のない浜辺も悪いものじゃないけど。一緒に歩く?」 「その前に朝飯だ。いや、起きなくていい。ベッドに持ってくる。フランス人も裸足で逃げ出すような、甘いカフェオレ付きだ」 「そんなの、いつ用意したの?」 「これからだ」 「ベッドで食べるのが好きね」 「だらしがないのが好きなんだ。このまま雨が上がるまで、ぐずぐずしていよう」 「帰りの飛行機が飛んでいっちゃうわ」 「それもいいな」 「ふふ。そうね」 「残念ながら明日には止むさ。いや、今日中かもしれない」 「天気予報?」 「いや、これ」 「てるてるぼうず。そんなの、いつ用意したの?」 「夜なべした。リビングのソファは占拠したぞ」 「お父さんって、何でもありね」 「『一途』と『馬鹿』は、ちょっとした綴りの違いなんだ」 「キョン?」 「ああ、すまん。起こしたか?」 「うん、ううん、ああ、そうね」 「どっちだよ?」 「もしかして雨降ってる?」 「ああ。窓から外見ると、水の中にいるみたいだぞ。……調子よくないのか?」 「そうじゃないわ。昔のことを思い出しただけ。……夢を見たんだけどね」 ハルヒは言葉をつづけた。 「小さい頃、溺れたことがあってね。親父が飛びこんで、母さんが人工呼吸してくれたんだって。覚えてるわけじゃないけど」 「……だから、おまえも助けに飛び込んだのか?」 「そうじゃないわ。泳ぎは得意だと思ってたし、そんなことで泳げなくなるのも悔しいから、ちょっとムキになってたこともあるけど。助けたのには理由なんてない。気付いたら、やっちゃってた、って感じね」 「そうか」 「溺れたのは覚えてないけど、その後、自分が謝ったのは鮮明に覚えてる。親父に謝ったのなんて、あんたからしたらバカみたいだと思うかもしれないけど、あれっきりよ」 「……」 「親父があたしの頭にぽんと手を置いて、『間違えたと気付いたら、ごめんなさいと言えばいい。それだけだ』って。どれだけ泣いたか分かんないし、どれだけ謝ったかもわからない。ただ延々と涙が止まらなくて、繰り返し繰り返し『ごめんなさい』って言ってた」 ポットから聞こえる音が変わって、お湯が沸いたことを知らせていた。 二人分のコーヒーを入れて戻ってくると、ハルヒはベッドの端に座って、窓の外を見ていた。 ホテルはこのあたりで一番高い建物で、座ったまま窓から見えるのは雨雲と窓ガラスを叩く水滴だけだった。 「飲むか?」 「ん」 「……あとで、海に行かないか?」 「どうして? 今日みたいな日に行ったって、あるのは砂と水だけよ」 「こっちに来て、まだおまえと泳いでない」 「でも水着も何もないわよ」 「水着どころか傘だってないぞ」 「買いにいく? でも、この土砂降りの中、泳ぐの?」 「泳がなくてもいいさ」 「何しに来たのよ、あたしたち」 「さあな。だが、なんでここにいるかは俺にだって分かる」 「なんでよ?」 「おまえがここにいるからだ」 ハルヒは軽く衝撃を受けたように軽く口を開いて、すぐに、このバカ何を言い出すんだ、という顔になった。 「キザキョン」 はて、おれは何かキザなことを言ったか? おまえが連れてきたから、おれはこんな亜熱帯の島に来たんだろう。 「はあ。わかんないのが、あんたよね。それはもう、よーく知ってるはずなんだけど」 ハルヒは、となりの部屋にいたって聞こえるくらい、大きなため息をついた。 「もう、こうなったら海でも何でも行くわよ!」 「ごちそうさま。おいしかったわ」 「朝からカツカレーはなかったかもしれんが」 「ベッドでとる朝食向きじゃなかったかも。出張中、いつもこんなの食べてるの?」 「海外旅行も7合目くらいになると、急に日本食を食べたくならないか?」 「カツカレーを?」 「よそでまずい寿司なんか食うよりはな。どういう訳だかトンカツよりもうまいと感じる」 「おいしいと思うものを食べる方が、食事は楽しいわ」 「何を食べるかより、誰と食べるかじゃなかったか?」 「時には一人で食事をしなきゃならないこともあるもの」 「それはそうだ」 「故郷を甘美に思う者はまだ嘴の黄色い未熟者である。あらゆる場所を故郷と感じられる者は、すでにかなりの力をたくわえた者である。だが、全世界を異郷と思う者こそ、完璧な人間である」 「なんだ、それ」 「昔の誰かが言った言葉ね、きっと」 「俺のくちばしは黄色いな」 「誰だって、完璧にはほど遠いわ」 「完璧な奴は、どこからも何からも遠い訳か」 「そして誰からも、ね」 「好きなものくらい、好きに食わせろ、だ」 「お腹もふくれたわ。仕事にかかりましょう」 「雨なのにか?」 「雨だからよ。人が少ない方が探しやすいわ」 「母さんだけが分かってることがある気がするんだが。教えてくれないか?」 「そうかしら? 私が思ったのは、意外と簡単なことよ」 「というと?」 「溺れている真似というのは結構難しいわ。何しろ泳げる人相手に嘘をつく訳だから」 「そりゃそうだな」 「ぶっつけ本番では無理だと思わない?」 「なるほど」 「練習するなら、カモになってくれる観光客のいないときにむしろ、やりたくないかしら」 「合点がいった」 「今日は私を信じてみません?」 「いつだって信じてる。出掛けよう」 「で、なんなのよ、このデカイ傘は?」 「ゴルフ用らしいぞ」 「あたしが言ってるのは、そういうことじゃなくて」 「ホテルが貸してくれたんだ。傘なんて、この辺りじゃ売ってないとさ」 「だから、そういう……」 「ゴルフをやる外国人ぐらいしか、この島じゃ傘なんてささないんだと。雨が降ったら街も道も人も濡れる。当たり前じゃないか、と言われた」 「その通りだわ」 「その通りだけどな」 「あんた、泳ぎにいくんじゃないの? どうせ濡れるじゃないの」 「水着も売ってないそうだ」 「この辺りじゃみんな裸で泳ぐ訳?」 「さっきからビービー鳴ってるのは何だ?」 「持たされたケータイよ。電源は切ってあるけど、濡れると救難信号が出るそうよ」 「それくらいの音で周囲に聞こえるのか?」 「ずぶぬれになれば、ワンワン鳴り出すらしいわ。雨くらいじゃ周りも助けようがないでしょ?」 「やっぱり傘があって正解じゃないか」 「音だけなら、ビニール袋にでも入れておけばいいのよ」 「ケータイをか?」 「そう」 「この辺りじゃ、雨の日は、みんな着衣で泳ぐんじゃないのか?」 「どうせ濡れるから?」 「そうだ」 「晴れの日は、大抵トップレスだけどね」 「なんだと?」 「水着の跡が残るように日に焼けるのが嫌なんじゃないの?」 「俺が言ってるのは、そういうことじゃなくてな」 「じゃあ、どういうことよ?」 「……目の毒だ」 「はあ? 毒はあんたの頭にたまってんじゃないの?」 「かあさん、当たりだな。おきびきシスターズだ。雨なのにご苦労なこった」 「あら、ほんと」 「びっくりしてるのか?」 「少しね。あてずっぽですもの」 「母さんのあてずっぽが外れたことなんてあったか?」 「そりゃありますよ。じゃないと、生きていても楽しくないでしょ?」 「人生には他にも楽しいことがいろいろあるぞ」 「そうね。『たとえば?』って聞いていい?」 「もちろん」 「じゃ、たとえば?」 「水泳とか」 「お父さん、泳げたの?」 「海外か、でなきゃ人命救助のとき限定だけどな」 「そういえば、小さい頃ハルが溺れたこと、ありましたね」 「自分の指や腕を無くしても、最初から無かったことにすればいいし、忘れる自信もあるが、女房や娘はそうはいかん。だから、ちょっと本気出したんだ」 「どうして、いつもは本気出さないの?」 「知ってる奴に見られたら、恥ずかしい。あ、水泳の話だぞ」 「わたしも、お父さんとこうして話すのは楽しいわ。これも人生の楽しみのひとつね」 「俺がどういうことを話すかくらい、母さんなら分かるだろ?」 「いい映画やお芝居は、結末が分かっていても、何度見たって、楽しいのよ」 「ちがいない。……車はこの辺りにとめておくか」 「彼女たちがいる波打ち際まで、砂浜を歩いて行くの?」 「うん。なんか、まずいかな?」 「お父さん、遠くからでもすぐ分かる方だから、多分彼女たち、蜘蛛の子散らすように逃げて行くと思うわ」 「悪魔の親父だからなあ。『ハルヒを出せ〜。隠すとためにならんぞ〜』って感じか?」 「うずうずしてる。やってみたいのね?」 「悪役ほどおもしろいもんはないぞ、母さん」 「人生、楽しくって仕方がないって感じね」 「悩み事は、時間と精力があり余ってる若いやつらにまかせよう」 「とりあえず、どうします?」 「やっぱりこの手しかないか」 「何に使うの、このバット?」 「やりたいのは「矢ぶみ」だったんだが、拳銃はそこいらでいくらでも買えるのに、弓矢とか手に入らなくてな。とりあえず、このバットをあいつらの近くまでぶん投げるから、バットに油性マジックでハルヒ宛のメッセージを書いてくれ」 「なんでバットなの?」 「非常識だし目立つだろ。あと重心が端のほうにある長いものは遠心力をその分使えて、より遠くへ投げられるんだ」 「文面はどうします?」 「そうだな。『ハルヒへ、夕刻、この浜で待つ。おまえも女なら一人で来い。親父』でいいだろう。そうそうハルヒはHARUHIと書いといてくれ。でないとシスターズの連中が、あのバカ娘のことだと分からんかもしれん」 察するに、災難だったのは、置き引きの姉妹たちだった。 彼女たちは、この街の路地という路地、水路という水路を知り尽くしていたが、大きな街でたった二人の人間を(たった半日で)捜し出すのは相当な苦労だった。 俺たちを最初に見付けたのは、昔ハルヒが「助けた」このある少女だった。彼女が姉妹たちを呼び、一番小さい女の子が俺たちにバットを差し出した。 ハルヒはそれを左手で受け取った。 「来たわよ、バカ親父。なんか用?」 「よく逃げずに来たな。ご褒美にハンデをやろう。泳ぎで勝負なら、そっちも異存あるまい。但し、俺は「人命救助」じゃないと本気が出せんから、誰かに『溺れる役』を頼むことにしよう。指名はおまえにまかせる」 さすがに悪魔と呼ばれるだけの親父である。罠が何重にも仕掛けてある。 相手に選ばせるように見える個所はすべてまともな選択肢ではない。しかも選択の前提として、一方的な条件が提示されている。選ぶためにはそうした前提を飲まねばならず、普通なら自由意思を発揮できる選択という行為自体が、どちらの選択肢を選んだにせよ選択者を拘束していくのだ。 最後の「おまえにまかせる」も同様にえぐい。その含んだ意味は「まかせる」とは名ばかり、この勝負を受けるなら、危険な目に合う役割をハルヒが選ばなければならないという、命令なき命令、強要なき強要だ。 ハルヒの母さんは、親父さんの言葉を、おきびきシスターズに同時通訳していた。ワンテンポ遅れて、その意味を理解したシスターズたちは激高し、そして二人の少女が前に歩み出た。 ひとりは、ハルヒが「助けた」ことのある、ベテランの「溺れ役」だった。 もうひとりは、ハルヒとシスターズたちの家である船にいたとき、部屋を覗いていた、あの少女だった。 ハルヒの母さんが事情をおれに説明してくれた。 「人見知りらしいの、彼女。だから浜で大人たちの手を引くより、泳ぎがうまくなって、次代の「溺れ役」を目指しているそうよ。今日も先代のあの娘に稽古をつけてもらってたですって」 気付くと、おれも一歩前に出ていた。どう考えても、彼女たちを巻き込む話じゃない。シスターズの義侠心には心打たれるが、その手のものこそ、悪魔親父に狙い打たれるだろう。 ハルヒは前に出た3人を見て、ため息をついた。 「落ちたものね、他人を巻き込まないと勝負もできないなんて」 「ふん、さすがに引っかからんか。頭は冷えたようだな」 「おかげさまでね」 「その目……泣いたか。なるほど、ちっとは見れる面になった訳だ」 「言ってなさい。わかってるだろうけど、ハンデはいらないわよ」 「母さん、風向きが変わった。こりゃ、ひょっとすると、ひょっとするぞ」 「お赤飯なら準備してありますよ」 「だそうだ。思いっきり来い」 「言われなくても!」 勝負は一瞬でついた。それが勝負と呼ぶべきものだったとすれば。 いつもはハルヒのすべての攻撃を受け切ってから動く親父さんが、先に突きを放った。 ハルヒはそれを知っていたかのように左側に倒れながらよけ、親父さんの腕が伸びきったところで、それを鉄棒の要領でつかみ、腕を軸にして一回転した。回転の最中にもハルヒのカカトは、親父さんの顎とみぞおちを打った。親父さんは膝を突き、後ろ向きに倒れた。 「親父、ごめん」 「おいおい、マウント・ポジションとってから言うセリフじゃないぞ」 と言いながら、親父さんはハルヒの打ち降ろす掌打を、残った腕一本で奇跡的にさばいてる。 「あたし、あいつといっしょになる。そして幸せになる」 「まさか、こんな情けない状態で聞くことになるとはなあ。娘の顔とセリフは感動的なのに」 ハルヒは打ち降ろす手は止めないまま、涙を流していた。期待と不安と感謝の気持ちでいっぱいになった、明日の式を控えた花嫁のように。多分、ハルヒと親父さんの間で何かが終わり、また変わろうとしているのだろう。 掌打がひとつ、ふたつ、とクリーン・ヒットした。さすがの親父さんも、表情を歪ませる。 とどめだった。ハルヒの両手が親父さんの側頭部をつかむ。親父さんもこの機会を待っていたのか、ハルヒの手を払うかわりに、ブリッジのため頭の横に手をつく。ハルヒが自分の頭を、親父さんの鼻先に叩きつけた、ように見えた。ハルヒの体重がその瞬間前に移るのに合わせて、親父さんは足を突っ張り脱出をはかろうと目論んでいたのだろう。しかし親父さんの全身から力が抜けた。ハルヒの唇が、親父さんの額に「決まった」ので。 「やれやれ、おでこ、か」 「あ、あたしとしては最大限の努力と妥協の結果よ」 ハルヒは跳ね起きて、ぱっと立ち上がった。 「さあ、敬意は払ったわよ」 「オーケー。それで手を打とう」 親父さんは仰向けに倒れたまま、肩をすくめた。 「あー、もったいねえ。こんないい女に育って他人にやることになるんなら、あの時、死ぬ気で助けるんじゃなかった」 「なによ、それ」 「しかたがないか。思わず飛びこんじまったんだから」 「ツンデレよ、ハル」 ハルヒの母さんが、あの透明な笑顔で笑った。 「お父さん、照れてるのよ」 「母さん、あっさりとどめを刺さないでくれ」 いや、それはここにいる誰もが知ってると思います。 「あー、もったいねえ、もったいねえ」 「うるさいわよ、そこ。もっと他に、先に言うべき言葉があるでしょ?」 「ちぇっ、わかったよ……。ま・い・り・ま・し・た。 ……これでいいか?」 「結構よ……それと」 ハルヒがちらっと俺の方を見た。おれはうなずく。ハルヒもうなずき返す。 「それとね。……ふう、あの、いろいろ、その……ありがとう、お父さん」 その日の夕食は、すばらしいものだった。ハルヒの母さんが「本気」を出したのだ。 「赤飯まで!ほんとに準備してあったんですか?」 「昔の人の知恵って偉いわね。ほら、お手玉。」 「へ?」 「あれの中って、小豆が入ってるの。もち米だとか、蒸すためのせいろとかは、中華街に行くと手に入るし。中華街なら世界中の大抵の都市にあるわ」 「ってことは、お手玉をいつも?」 「旅行って、待ち時間ばっかりでしょ。手を動かすとまぎれる退屈さもあるの。うるさいのが二人もいて、私は退屈しないと思ってた?」 「いや、そんなことは」 「キョン君は、明日みたいにお天気のいい朝を寝坊するのが幸せなタイプね」 「ははは。そうですね」 「ちょっと、キョン!いつまで食べてんのよ! 花火するって言ってあったでしょ!」 いつもの奴が、いつものようにズカズカとやって来た。 「ほらほら」 とハルヒの母さんは笑う。 「もう食べ終えたさ。ちょっと話をしてただけだろ」 「なに、母さんに見とれてたの? 何度もいうけど人妻よ」 「おまえはおれに、あの人と死闘しろっていうのか」 「悪魔の親父よ。手加減しないわよ」 「花火をやろう。その話は、夢に見そうだ」 俺はハルヒの手を引いて、コテージのベランダから、夜の砂浜へ出た。コテージの光が落ち着くくらい暗くなるところまで言って、なにかずるい手で持ち込んだのだろう、火薬の固まりの袋を取り出した。 「あんた、線香花火なんてベタなもの、いきなり出してどうするつもりよ」 「どうするって、火をつける」 「それは最後にするもんでしょ。で、じーっと火の玉を見て、自分のが落ちたらがっかりして、相手のが落ちたらバカにすんの」 「それこそベタだろ」 そして、「家族旅行」の最後の日の朝。 目が覚めると、ベランダにひとり親父さんが残っていた。 「何か、食うか? サンドウィッチなら作れるぞ。あと時間さえあれば大豆から豆腐もつくる」 「親父さんが?」 片手でか? 「人間、不便すると、なんとかするもんだ。実をいうと、ここに作った奴がある。サンドウィッチだけだが、好きなの食え。……母さんの大好物なんだぞ」 親父さんは、トレイを俺の前に置いてくれた。俺はひとつ食い、二つ目に取りかかろうとした。 「うまいです。……あれ、その本?」 「ん?ああ。昔、読んだことがあるんだがな。昨日、置き引きシスターズにもらったんだ。連中は、悪魔がいつも日本語に飢えていると思ってやがる。つまりお供え物って訳だ」 「おもしろいんですか?」 「穴があったら飛び越えて、どこかに走り去りたくなるほどだ。猫マニアのロリコンが、コールド・スリープとタイム・マシンを使って、出会った時には6歳だった女の子を『俺の嫁』にする話だ。今なら発禁ものだな。福島正実入魂の訳だと、こうだ。『もしあたしがそうしたら——そうしたら、あたしをお嫁さんにしてくれる?』。萌えるだろ?」 「ええ、まあ」と俺はあいまいな返事をした。誰だって、この場合、こうするだろ? 「なんだ、つまらん」 俺が乗ってこないのがわかると、親父さんはテーブルの上に本を投げ出した。 「食えるだけ食ったら、ちょっと歩かないか? ここの海もしばらくは見おさめだ」 「また来たいです」 「今度はおまえらが、おれたちを連れて来い。海外でやると余計な奴を呼ばなくていいから、意外に手間も楽らしいぞ。ちなみに俺の兄貴は神主をやってる、本職は教師だが。よくある話だな」 「実家、神社なんですか?」 「俺も資格だけはとったぞ」 絶対にちがう神様のにしようと、この時の俺が硬く誓ったとしても、誰も責められまい。 親父さんと二人、海に添って歩いた。 「あれで腕、折れてなかったんですね」 「途中で手を離しやがったんだ。娘に手加減されるようじゃ、おしまいさ。まあ、いい時期だ。子離れ、親離れ。俺たちにも時間はたっぷりある」 親父さんはにやりと笑って言った。 「ボコられながら、あんなセリフを聞いた親父なんて、世界で俺くらいだぞ。ほんとに、あんな奴でいいのか?」 「はい」 「まあ、どうしようもないバカだが、あれでも大事な娘なんだ。よろしく頼む。……返すといっても、引き取らんぞ」 「はい」 その後、聞いた話をひとつだけ記しておきたい。 いつもはハルヒに先手を取らせる親父さんが、なぜあの時に限って先に動いたのか? 「勝ち急いだんだ。小便に行きたかった」 親父さんがゲラゲラ笑ったので、おれもつられて笑った。この話はこれで終わりにした方がいいという意味だと思ったので、俺は思うところはあったけれど、それ以上聞かなかった。 「まあ、なんといおうと負けは負けだ。そうだろ?」 砂浜をしばらくいくと、二人分の足跡が残っていた。足跡の先には、美しい母親とその娘が歩いていた。おおきな身振りをまじえて、髪をくくった娘の方が何かを熱心に話している。 「ハルヒたちだ」 「キョン君、伏せろ」 親父さんに、いきなり砂浜に押しつけられるように倒された。 「ててっ。……どうして隠れるんですか?」 「あー、つまり……」 親父さんは小さく咳払いした。 「いい絵はな、少し離れて見るのがいいんだ」 そして横を向いて、アヒルの口になる。どこかの誰かにそっくりだ。 「……つぶされて倒れてる俺一人カッコ悪いですね」 「ひがむな。そのうち、おまえの時代が来る」 「……」 「その時がきたらメールででも教えてやる」 * * * * 旅から帰った次の日はもちろん、一日中眠った。 ハルヒからは再三、俺の安眠を妨害するメールや電話が矢のようにかかってきたが。その度、眠そうに対応したせいか、ハルヒの電話の声はいつも怒っていた。 「なんで、あんたは、そんなにグーグー、いつも寝てるのよ! どんなのび太よ! 今のあたしほど、暗記パンとどこでもドアを必要としている人間はいないわね。もちろん食べるのはあんたよ!」 まあ、いつもと、ホンの少し違っているという程度だと、その時は思ったのだが。 「要するに、端的に言い換えて、短く言えば、独り寝がさびしいって言ってんのよ、あたしは! ……げ、親父、なんでそんなとこに立ってんのよ!」 「よお、キョン。時代がきたな!じゃ」 「こら、親父!待ちなさい! キョン、いまのどういう意味? 後でしっかり聞くからね!」 「そのうち」ってのは、早速ですか! というより、帰ってきていきなりですか、親父さん。 電話の向こうで、遠ざかる二人の足音を聞きながら、あの親父さんに一矢報いるためにあいつにまた「逃避行」でも持ちかけたらどうだと、不意に頭を占拠したアイデアを、俺は心の中で両手をクロスしながら、懸命にダメ出しするのに忙しかった。 ーーーおしまいーーー ハルヒと親父3 — 家族旅行プラス1 シリーズ ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その1 ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その2 ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その3 ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その4 ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その5 ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その6 ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その7 ハルヒと親父3−家族旅行プラス1 その8 家族旅行で見る夢は (家族旅行プラス1のスピンアウト作品)